罪、因果、縁起。たかが100円、されど100円。
最終更新: 2017/08/22
日常生活で人々がおおむね正直なことを言うのはなぜか。神様が嘘をつくことを禁じたからではない。それは第一に嘘をつかないほうが気楽だからである。
哲学者ニーチェの言葉である。
唐突に仰々しくはじまってみたけど、今日はそういうお話。
昨日のこと、ドラッグストアで日焼け止めの詰め替えパック798円とカロリーゼロコーラ100円を買ったのだが、お会計が798円であった。
馬鹿でもわかる算数である。お会計は898円のはずである、がしかし、初老の薬剤師風(いや、単に白衣を来てるだけだろう。ぼくは大学のころドラッグストアで働いていたので、店頭にはまず薬剤師は居ないことを知っている。実質、薬剤師の名義貸しのようなもので、資格持ちの薬剤師が店頭に立っているのは、週に3時間程度のものなのである。)の女性が告げたお会計は798円であった。
ぼくは一瞬、なんかの割り引きかと思ったのだが、、すぐにいや違う、しめた、コーラのレジを通し忘れたんだと気がついた。ぼくは単純にラッキーだと思いながら、798円を払ってレシートを受け取った。
やはりレシートにコーラはなかった。
そしてそのまま店を出た。
店を出てすぐは、このコーラはタダだタダだ、儲けた儲けたと、おそろしく単純にラッキーだとしか思ってなかった。
しかしさらにしばらく歩くと、なにかもやもやしてきた。100円と言えど、これは盗んだに等しく、悪いことには違いない、ので、もしもこの行いで何かしらのバチが当たったら……。
それこそたかが100円で、バチが当たったとしたら、そんな高い代償もないだろう。
そんなことを考えながらお昼ごはん、自分で作った弁当、を食べた。お店を出てから2時間くらい経っていた。
忘れてもよかったし、実際たいしたことではないと思う。しかしこの日は、妙に気になって、心にひっかかっていた。いや、30歳にあるべき社会的責任の自覚がそう思わせるのかもしれなかった。とにかくは、そうしてぼくは、100円とバチ(心のもやもや含め何かしらよくないことが起こるかもしれないという漠然とした不安)を天秤にかけた。
それは決して良心の呵責というようなものではなく、実に現金な"損得"の話であった(ちなみにぼくは友人の樋口氏に別名、損得睦仁と呼ばれている)。
そう天秤にかけると答えはすぐに出た。ちゃんと100円を払ったほうが"得"であると。
そうしてぼくは、100円を握りしめてドラッグストアに戻った。先程の女性の店員は客の対応をしていたので、別の小太りの男性店員に話しかけた。レシートを呈示して、事情を説明して、100円を渡した。
男性店員は、ああ、はいお金ね、はいわかりましたとそっけなく言って、レシートは打ち直しますか、?と言った。
実のところ、ぼくは少しムッとしていた。もちろん現実問題としては明らかにぼくが悪いのではあるが、わざわざお金を払いに戻ってくるなんて、ありがとうの一言ぐらいあってもいいのではなかろうかと、ひどく誉められたがりなぼくはそう思った。
いやもっと、あんたねぇ!この世知辛い世の中で!こんな誠実な青年はいませんよ!(ほんとはすっげえ汚い損得野だけど)と、説教してやろうかとすら思った。
がしかし、ぼくは、いえ結構ですと力無くかすかに笑って、足早に店を出た。
と、そういうわけなのだが、今日は書く前から結論を決めていた。そう、ニーチェは正しかったと。そういうオチと決めていた。
しかしこう書いてみると、自分の本性がよくわかった。ぼくの良心(のように見えるもの)は、100円ぽっちなのだと。だって、これが1000円だったら、決してぼくは返しになんて行かなかっただろう。
そんなだからぼくは幼少のころより自己中心的だと言われ続けてきたのである。自己中心的、エゴイスティックな人間を代表して言っておく。自己中心的な人間に、良心なんてものはない。あるのはただ、損得勘定だ。
それにしても、たいていの人は生まれながらに持っているだろう良心、良心、ぼくの良心はいったいどこにあるのだろう。

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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