雪白く燃える
2017/08/22
ご飯=お酒の毎日を過ごした正月三が日、無口な肝臓は黙々と働いてくれたようで、さして二日酔いにもならず、僕は肝臓の分までべらべらとあること無いことを喋り散らかしたのであった。
昨日などは母と妹と居酒屋に行きその上カラオケまで行き僕は帰ってから一人うまかっちゃんを食べるという暴飲暴食ぶりで、まったく、実家での過ごし方というのはよくわからない。
いつからかよくわからないが妹が母のことを“ひさちゃん”なんて呼んでて、昭和の僕としては「親は友達じゃないんじゃけえちゃんと“お母さん”と呼びなさい!」と叱りつけようかとも思ったが酔っぱらったらそんなことはどうでもよくなって、気づけばみんなで羞恥心を大合唱してた。
まっっっったく、意味がわからない。
で、今、帰りの新幹線の中は乗車率150%かそこらで、それはまあどうでもいいんだけど後ろの奴がさっきから延々とガムをクッチャクッチャ食ってて、段々発狂しそうになってる。
「大変失礼ですがそのクッチャクッチャいわすのをやめて頂けますか?」
と言ってやろうかとも思うのだが、どうも言えない、言いづらい。
ああ、いま僕は死ぬほど耳栓がほしい、いやiPod的なやつがほしい、いやもっと、いっそのことこのクッチャクッチャ野郎がガムになってしまうことを本気で願う。
クッチャクッチャが鬱陶しくてそれ以外のことが考えられない、ので、仕方ないから徹底的にクッチャクッチャについて書くことで気を紛らわそうという作戦を遂行中なのだが敵は手ごわく相変わらずクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャ……
僕がどこか別の場所へ移動できればいいのだが車内は混み合っていて動けない。やはり注意をするしかないのか、いやしかし物騒な昨今、逆上されて恫喝または殴打あるいは刺傷はたまた殺傷などされてはかなわない、なんて考えると、僕もガムを噛んで、この野郎以上にクッチャクッチャいわせてやるというこの上なく卑屈で地味な作戦がいいのかもしれないがなにぶん僕は気弱でありただただひたすらに我慢の人なのである。
ああ、本当つくづく思う。あらゆる人たちとうまく折り合いをつけて生きていくってのは本当に難しいことだと。男子たる者一歩外に出れば七人の敵が居るとかいうけれど、現代社会において敵とはこういうクッチャクッチャみたいな奴であり電車内で携帯でベラベラ大声で喋るやつであり歩きタバコをする奴であり、とにかくは自分の気分を害するあらゆる人が“敵”なんだろう、なんて思うんだけどいかがでしょう。
敵を愛せよ、なんて無理。左の頬をぶたれたら右の頬も差し出そう、なんて無理。ああ、無理無理無理無理。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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