雪が降ったけどどうでもいい

  2017/08/22

つまり、どこにも行きたくない-F1000978.jpg

とりあえず寒い。2月ってこんなに寒かったっけ? もう春だなあなんて勝手に思ってたのに今日はとうとう雪が降りやがった。
降りやがった、なんて乱暴な言い方をすんのは特に今時分雪に降られてもロマンチックでもなんでもなく単に寒いだけだからである。だってその証拠に今日雪を見たときに思ったのはなぜだか嫌な感じで濡れた、もしくは凍っているタオルとかの洗濯物のことだった、といっても今日僕が洗濯物干してきたわけでもないんだけどとにかくはそんな映像が不意に浮かんだのである。
閑話休題。
うんざりされている、もしくは閉口されている方もいらっしゃるかもしれないが、最近ぼくは暇さえあれば料理のレシピを眺めている。
今日はとうとう“うらごし器”を買いに行こうとしてたりする。
何をするつもりかと言えばカボチャやらサツマイモやらを煮て、それをこしてなめらかにして例えばパンプキンスープなどを作るつもりなのである。
もう何になりたいんだかよくわかんないけど、趣味の力というのはすごいものだなあと思う。
いつだったか父が、僕が絵を描いていることについてを趣味じゃろうなどと言って、僕はかなり腹を立てて言い返したことがある。
「いやいや趣味なんかじゃねえよ。たとえばゴルフを趣味にしてる人が居て、雨の日にその趣味の人が練習すると思う? 絶対しねえよ。だけど本気の人、つまりプロの人なら雨の日も風の日も構わず練習するだろ。おれはとにかくは雨の日でも練習する勢いでやってんだよ」
すると父は言った。
「違う違う違う。そりゃあぜんぜん逆じゃ。趣味じゃけえ雨の日でもやるんじゃ。仕事ならせん」
みたいなことを言った。
正直、その時はとにかくは自分が見くびられているような、バカにされているような、とにかくは腹立たしくて「そんなわけあるかい、ぼけえ」とはねつけて父の発言の正否を考える気にすらならなかった。
しかし、今になってみるとわかる。確かに趣味ならば雨でも嬉々として練習に励むだろうと。
誰に強制されているわけでも何かのプレッシャーがあるわけでも自分の行為が何のためでもなくひとえに自分の喜びのためであるのだから、たとえ雨でも「今日はスイングするたびに水しぶきが立って楽しそうだ」なんてプラスにすら感じられそうだ。それが趣味というものなんだろうと思う。
料理を通して何をいったい仰々しく気づいてんだって感じだけど、趣味なんてくだらん、趣味に時間を費やすくらいなら自分の本業に、もしくは本業としたいことに時間もエネルギーも費やすべきだ、なんてけっこう長いこと本気で思ってたけど、だって小中学校のころは「将来はゲームを作る人になる」って本気でゲームをやってたし、小学校のころは「Jリーガーになってお父さんとお母さんに一千万円ずつあげる」なんてやっぱり本気でサッカーしてたし、高校んころは広中平介(たぶん漢字違う)って数学者に憧れて本気で数学勉強してみたし(一瞬で挫折したけど)、そう考えると僕には今まで「本気」はあっても「趣味」と呼べるものがこれといってなかったのだ。
それが最近なんとなく料理が趣味ぐらいになって、というか趣味と言いたいものになってきて、やっと趣味の価値や楽しみに気づきはじめてたりする。
そんなわけでたぶん、つーか絶対、僕は雨でもうらごし器を買いに行くんだろう。つーかすでに雨降ってるし。だけど買いにいっちゃう。だから趣味。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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