絵画の意図と意味と無意味

  2017/08/22

たまには真面目に自分の絵のことでも書いてみようかと思う。
まずこの絵はシンメトリー、つまり鏡合わせの画像にある面白さから出発した。また、シンメトリーは画面への収まりがよく、少々グロテスクなモチーフでもシンメトリーにして扱えば一種の模様となって、グロテスクさは薄まる。
もちろんこの絵はグロテスクなるものを志向しているわけではなく、人間の肉体をシンメトリーにして陸続きにして組み合わせることにより、もともとのモチーフ=肉体には無かった勢いや新しい形態を作り出している。
しかしその勢いや新しい形態の発見は僕の主観なので、僕が感じた勢いや新しい形態を増幅して他者にも伝わるようにすべく、ダイナミックな筆の筆跡を組み込んでいる。
しかしその筆跡は大きな筆で一気呵成に描いたのではなく下書きをして緻密に描いている。それはどんなに大胆な行為も緻密な計算なしには画面の中=世界の中で的確な作用を及ぼせないということでもある。
またシンメトリーは画面への収まりが良いぶん、退屈になりがちなのでそれをあえて壊しアシンメトリーにするという意味も含んでいる。
大きなコンセプトとしては人間の肉体にある存在感の再発見である。情報化は進み続け利便性は向上を続け、パソコンを操る指先一つで巨額の金や重大事項が左右されたりする。その瞬間瞬間にも肉体は存在しているのにも関わらず、肉体の存在がどこかしら不在になりがちな現代に、今一度肉体らしい肉体の存在感とダイナミズムを提示する。
とかいう意味を付けようと思えばつけれるけど、嘘と言えば嘘だ。仮に今この瞬間はそのコンセプトが真実かもしれないが次の瞬間にはもうわからない。言葉を使う小説でさえ、読むときどきによって印象も意味も変わってくるように。
ひとつ思うのはあらゆるコンセプトは作者のためではなく鑑賞者のためにある、ということ。
芸術でさえ、僕はサービス業だと考える。だから、鑑賞者にはなるたけ親切にすべきだろう、とか思う。
前になるほどなと思った話がある。若手だが、恋愛小説を書いていて、そのあとがきだった、確か。
年寄りだからといって年寄りの恋愛を読みたいわけではない。年寄りでも若者の恋愛を読みたいのだし、若者の恋愛を読んで楽しいのだ。そうじゃなければ恋愛のドラマがあんなに高視聴率になるわけもない、とかいう話だった。
しかしなぜだか絵の世界は違う。じいさんがじいさんの絵を見て喜び続けてるようなところがあり、それはなんだか「最近の若者は…」と愚痴りあう老獪のようでもある。
まあ確かに、現代絵画というものはわけがわからないといえばわけがわからないのだが、もっと年寄りにも若者を描いた恋愛小説のように微笑みとか張り合いとかでもって愛されてもいいもののような気がする。
まあいろいろ、意味がわからない今日この頃ではある。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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