ヒモが出ていればたぐるまで
2017/08/22
雨の土曜日、家を出ると途端に死の匂いを感じた。黒服に身を包んだ葬式らしき一行が色とりどりの傘を差し雨のなかに立って小さく言葉を交わしていた。
とかなんとか小節調に書いたけど近づくと葬式ではなさそうで、とにかくは何かの用で集まっているだけのようだった。
ぼくはそのわきをすり抜けてゆく。葬式でも葬式じゃなくてもどうでもよかった。僕が何かしらをする日はたいてい雨で、でもこういう星のもとに生まれてしまったからには雨を愛した方がてっとり早いに決まっている。
でも基本的には卑しい性格なので、“雨に見舞われたのだから(苦労したのだから)”なんて理由をつけて、誰に対してかよくわからないが恩着せがましかったりする。
中学生のころ、目覚めて雨だと僕は布団から出なかった。母が呼びにくるのを待って、お腹が痛いんだと、とりあえず言っていた。
雨は嫌いだ。なぜなら天然パーマだからだ。たぶんぼくの自意識過剰は天然パーマからきている。だれもおまえの髪なんて見てねーよ、とは考えられず、やはり完全なコンプレックスであった。
軽くはなったが今でもコンプレックスではある。
だけど最近思う。もしかしたらその大きなコンプレックスがあったからこそ、他の小さなコンプレックスに目がいかなかったんじゃないか。それである意味では僕は、“単純に悩む”ことができたんじゃないか、なんて。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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