私の夢、私の将来

  2017/08/22

なんか、自分の人生が狂ってきたなあと思う。

大学のころの予定(漠然とした)では、いまごろはもうとっくに結婚しているはずだった。子供だっているような気がしていた。そもそも30歳までに美術家のはしくれにもなれなかった自分は自死しているはずだった。

結婚してもいないし子供もいないし死んでもいない。

生きてる。のうのうと。

小学校の卒業アルバムに、十年後の自分はどうなっているかという項目があって、ぼくは「父親」と書いていた。そう、そのころはとてつもなく”ふつう”だった。でも、その次の項目に生まれ変わったら何になりたいかというのがあって、そこには「ゴキブリ」と書いていた。

そうしていま現在は、どちらかというと父親よりはゴキブリに近い。つまり生まれ変わったんだと思う。いや、けっこうまじめな話。

大事なものが大事ではなくなったり、ぜんぜん大事ではなかったものが大事になったりする。生きれば生きるほど、そういうことが起こってくる。

たとえば、高校のころ、いとこがぼくの家に泊まりにきたときのこと。ぼくが居ない間に、プレイステーションかなんかのゲーム機のソフトが別のソフトに差し替えられていた。

そのことに、ぼくは激怒した。なぜかというと、そのころのぼくにとってはゲームが何よりも大事なものであって、”デリカシーのない”他人にソフトを差し替えられCDの盤面にキズでもついたらどうするんだと思っていたからである。

そういう人間だった。いま考えれば、我ながら引く。ドン引きである。

そういう時代があって、しかし、今ではすべてのモノがどうでもよくなっている。近年は食器を集めるのが好きなのだけれども、もしも他人がそれを割ってしまったとしても別に怒らない。すこしは残念に思うだろうが、たいしたことではない。また買えばいいし、そもそも形あるものはすべて壊れる。そう思うようになった。無理をしているわけではなく、心からそう思えるのである。

この”心から”というのが重要である。つまり、本当に人間は変わってしまうということだ。

しかしまあ、今でも高校のころのような偏執狂的なこだわりを持っている性格なのだとは思う。たとえば、と考えたが、こだわっているモノは特にない。服装にはそこそこ気を使っているが、毎朝コーディネートに何時間もかけるわけでもないし、それほど金をかけているわけでもない(もっとも金をかけているのは飲酒である)。日焼け止めはちょっと洗濯を干すときでさえもしっかり塗るが、それはもともとホクロが多いので、これ以上ホクロが増えたらホクロ人間になってしまうという危惧からに過ぎないので、こだわりというわけではない(余談だが、小学生のころ国語の時間に”黒子”の読み方を黒板に書かれたときの恥辱と言ったらなかった)。

そう考えてみると、ぼくの日常で一番こだわっているのはこのブログだと思う。毎回しつこく5、6回は読みかえす、誤字脱字、てにをは、その他わかりにくい表現はないか、まわりくどくはないか、もっとよい表現はないかと、推敲を重ねる。おまけに記事を公開したあとも「いいね!」が押されるたびに(どこがよかったんだろう)といちいち読み返している。そしておそらく誰も気がついていないだろうが、それでまた気になるところがあれば、ちょこちょこと修正を加えたりしている。

なぜにそんなにもこだわっているのかといえば、このブログは自己表現という範疇を越えて、自分自身のように思うからである。本当に、この文章はぼくそのものなのだ。だから、そのこだわりは、自分に対するこだわりとイコールと言ってもいいだろう。つまるところ、ナルシスト野郎ここに極まれりという話である。

それはともかく、私の夢と将来についてであるが、さっぱりわからない。まあ、美術家になるのが夢ではあるが、それとて夢と呼ぶにはあまりにも擦り切れてしまって、ほとんど身体に手足がくっついているような当然さで、夢うんぬんと取り立てて意識するようなものではなくなっている気がする。

というか、最近では人生とはほぼ100%運だと思うようになった。それはもう当然のごとく自分の力の及ばないことがらなので、どうにもならない。そうして、”なるようにしかならない”という凡庸な結論となる。いろんな意味で大人になったと思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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