振り回すタイミング

  2017/08/22

昨夜、絵を描いていると携帯が鳴った。
開くと父とあり、ぼくはいぶかしがりながら電話に出た。

「エビ、エビハラなんとかいうのは知っとるか?」

知ってるも何も意味のわからない僕は聞き返した。

「あのモデルの、エビちゃん言うんかいの、あれはおまえとおんなじ九産大なんじゃろう?」

ぼくはようやく合点して、あのマクドナルドとかのCMをしてるエビなんとかってタレントだと気が付いた。
ああ、知ってるよ、そう答えると

「興味ないん?エビちゃん」

と、なんだかオタク的な、気持ち悪めな聞き方をしてくるもんだから、僕は素で父は気が狂ったのかと不安になった。もしかしてもしかすると母を流行りのオノかナタあたりでぶっ殺して、返り血のスプラッシュに粘り気の強いよだれを垂らしながら電話 してきているんじゃなかろうか、とも考えた。いや、ほんとに。

僕は不安でちぢみあがった喉を鞭打って、いや、興味なんかないけどと、ようやくで返した。

「ほうか。ならええわ」

そこで電話が切られるとは思ってもいなくて、僕はしばらくの間放心せざるをえなかった。しかしまあ、その後母に聞けば、出張先で同僚と飲んでてそんな話が出たらしい。そう、他愛もないことだったのだ。

しかしそれは、父にとっては蜘蛛の糸のごとくで、それを丁寧にたぐりたぐり、僕と話をする口実としたのだろう。つまるところ、僕と話したかったのだろう。純粋に、話題などなんだってよかったんだろう。

しかし息子のつれない返答に、父はいっそ落胆して電話を切った、その指先。

まだ秋と呼べる季節なのに、酒で温もった体が冷めてしまったろうな、なんて。美談に過ぎるな。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

がんばれ自分、あと2週間。と、吉野家のお客様相談室への感謝。

2012/06/01   エッセイ, 日常

タイトルがまるで「がんばれニッポン」みたいなお寒いことになってしまった。が、もう ...

鯵のさんがのレシピ

そういえば、鯵を使ったレシピは"なめろう"ではありませんでし ...

選別の門(駅の自動改札、空港のゲート、PCのセキュリティソフトから見えてくるもの)

朝の改札を、夥しい人が通り抜ける。ICカードをタッチする電子音が、尽きることなく ...

スタンダードカレーライス

2010/08/14   エッセイ

広島ではこれを“カツカレー”とは呼ばず“カレーライス”と言い切るらしい。 という ...

風邪を引けばエロくなる

男は風邪をひいた時が一番エロい。 それで昔は、学校を休んだ日、母がパートにでかけ ...