心さもしきこの世界

  2017/08/22

つまり、どこにも行きたくない-F1000941.jpg

奇特な、コアなファンの方々からバレンタインチョコをもらった。うむうむ、君たちは世間一般からはみ出しがちな傾向があるかもしれないけれど非常に見る目がありますねとかいうのをお礼の言葉と代えさせていただきます。どうもありがとう。鼻血が出るまで食べます。
別にそれが嬉しくて嬉しくてってわけでもなんでもなく昨日は風呂にも入らずに寝入ってしまった。
朝起きてすぐ風呂に入ろうと思ったんだけど、ついでにもう少し身体を汚して一気に綺麗にしましょう、というかそうした方が得!という意味のわからない貧乏根性で僕は一人そそくさと多摩川の河川敷にランニングに向かった。
丁度正午に差し掛かるあたりで、春は近いらしくえっちらおっちら走る僕には暑いくらいだった。流れる汗がなんだか嬉しくて、わざっと大袈裟にぜえぜえ息を切らして走った。そしてまた汗が流れて、身体が汚れていくのがなんだか心地よかった。そんな実感あるわけないって思われるだろうけれど、いかにも身体が鍛えられてる感じが僕の気持ちを高揚させた。プラス、自尊心は鰻登り。
最近思う。自信というものは”あるorない”ではなく”作れるor作れない”であると。
だから僕は作るんである。しかもそれは生ものであるからして、往々にしてヒビが入ったり崩れたりするから、いちいち補修して、そして時々はゼロから作り直さなければならないのである。
肉体と精神とは固く繋がっている。肉体のテンションが上がれば自然と精神のテンションも上がっていくものだ。揺るぎない自信というものはそのバランスの中で高く生まれてくるような気がする。とかなんとか言って、とにもかくにも僕は僕自身を好きでいたいだけなんだけど。最近、以前よりも自己愛が抱きにくくなってたりして、そういう自分の心の変化に小さな老いの欠片を感じたりしている。それにしても今日は天気がいい。
閑話休題。
昨日の小田急線は荒んでいた。
まずはリストラにあったとおぼしきオッサン二人の会話から始まり(「おれはいつでも辞めてやるつもりで働いてますよ!今は52でしょ!あと3年はやってやりますよ!」と一人が力説し、もう一人は既に解雇されているのか、その言葉に対し、「バカ言っちゃいけねえ」なんて言って、酩酊のせいか、二人ともが本当に泣きそうになっているのである。おっさんそれぞれの顔の目尻や口元に深く刻まれた皺は本来であれば一生懸命に働きその中で自然に年を取っていったのだからある種の勲章にさえなるだろうに、それらはただただマンガとかで動きや迫力を表す集中線みたくなって憐れさを増幅させるばかりなのであった。そんなこんなで僕は初めて”不況の現実”というものをひしひしと感じてしまった。)、その次はニンテンドーDSか何かで漢字検定か何かをやってるオッサンに若者が「こんな満員電車の中でそんなことやってんじゃねえよ! 邪魔だろうがぼけぇ!」と言い放ち、言われたおっさんはおっさんで「あぁ? なに言ってんだぼけぇ!」と、醜いこと極まりない言い争いが勃発。
それでただでさえ不穏な空気が漂い不自然に静まりかえった車内の中で、今度は「痴漢ですよ!!これあなたの手ですよね!?」と、痴漢騒ぎが勃発。360度どこから見ても完全にキレてる女が「次の駅で降りてください!!」と、しょぼくれた貧乏そうなスーツの茶髪の男に言い放つ。(なんとこの一連の騒ぎが下北沢から成城学園前までの間で発生)。男は男で「ああっ!? 降りてやんよ!」なんて言ってたけど、実のところそれは精一杯の強がりにしか見えなかった。
で、車内、誰一人その件にかかわらず、黙殺。
それからちょっとして、男が女に言う。「ぼく登戸なんすけど、登戸まで行けませんか?」(間抜け過ぎる)
「駄目です!成城で降りてください!」と、女、ピシャリ一蹴。
僕は成城でその二人が降りるまでの間、その男がこれからどうなってしまうのだろうかと想像していた。仮に冤罪だとしても、実証するのは十中八九ムリだろうなあ。だって僕を始め周りの人たちは完全に無視してるわけだし、証言も集まるわけはないだろうし、関わるのは面倒だろうし。で、その男、とりあえず今日は警察署で過ごすことになるんだろうなあ。仕事はどうなるんだろう。妻や子供いるんだろうか。本当に痴漢したんだろうか。
とりあえず僕が心底思ったのは、ああ、世の中ってさもしいなあ。もし釈迦ならばこんな時、どのような説法をしてくれるんだろうか、なんて。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

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