引越のための前夜祭
最終更新: 2017/08/22
あしたは引越だと思うとワクワクしないこともない。駅から近くなるのがうれしかったりするけど実はよくよく考えたら次に住む家って変な間取りだよなと思えてあまりワクワクできなかったりする。
住めば都。
そうでもない気がする。とりあえず今の家には一年半超くらい住んだわけだけどどうもいまだに「ここがおれん家だ!」という気がしない。
大学ん時に住んでいたアマノフラット香住ヶ丘というところはこれでもかというくらい自分家だという気がしたのに。
考えかたが変わったんだろうか。物件自体がよくないんだろうか。とりあえずビルの掃除に来るおばちゃんは頭がイかれてる感じでその姿を見るとついつい早足で、またときには「おはようございます!」と逆にやたらとはっきり冷たく言い放って、そしてとにかくはそのおばちゃんを視界から消すべく急ぎ足で立ち去るのであった。
だいたいそのおばちゃんと初めて出会った日が最悪だった。
僕の家の前には川が流れてるんだけど、といっても“清流”の対極にあるようなドブと呼んでもさほど語弊は無いような川なんだけど、とにかくは川があり川に沿って柵がもうけられている。
そこを引っ越したばかりの僕は歩いていた、いや嘘だ、ベランダで洗濯を干してたら“あるもの”を発見したからわざわざ降りて見に行ったのだ。
柵には一枚のジャケットがかけられていた。触るとそのジャケットは濡れていた。そしてなんだかそのジャケットはオシャレだった。
僕は状況から考えるに、どこかのオシャレボーイのベランダに干されていたジャケットが風で飛び、それを誰かが柵に掛けておけば持ち主が見つけて持って帰るんじゃないかと親切心を働かせた、その結果がいまここにあるジャケットだ、ぼくはそう思った。
そう考えたぼくはなんだかいいジャケットだなあ、という感想がけっこうよくね?それにサイズとかおれにピッタリっぽくね? なんて、服屋でやるみたいにジャケットを体に合わせて丈の具合なんか確かめながら、(持ってかえろかな?)なんて思っていた。
「なにしてるの!?」
いがらっぽい金切り声にぼくが振り返ると例のおばちゃんがこっちにずんずん向かってきているのだった。
「なにしてるの!人のものに!」
僕は突然の展開に口ごもりながら「い、いや、掛けてあったから、な、何かなと思って見てただけですけど、、」(ちょうど丈を合わせていたところで、うん、けっこうピッタリ、なんて思ってたけど)
そして僕からジャケットをひったくっておばちゃんは言い放った。
「ほんと、おかしいんじゃないのこの人は?!これはあたしの作業着よ!!」
ああ、こう文章にすると自分でも身につまされる。おお、もう、ぼくの身なりを見るのはよしてくれ。

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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