天才だった彼は

  2017/08/22

『LOS ANGELES LAKERS 2001』

スーパーからの帰り道、背中にでかでかと、そう刺繍されたジャケットを着ているおっさんを見た。

ほとんどの人は知っているであろう。だって、スポーツに毛頭興味のない私ですら知っているのだ。LAKERSは、アメリカのロサンゼルスにあるバスケットボールチームである。

私が小・中学校のころ、LAKERSを含めたNBA( アメリカプロバスケットボールリーグ)が流行っていた。靴下とか筆箱とか、そういう”生活レベル”にまでNBAが浸透していた。あるいは、それは地方都市の広島だけの現象だったのかもしれないが、確かにそれは流行っていた。

LAKERSのジャケットを見て、そのことを思い出した。同時に、小・中学校とずば抜けてバスケのうまかった斉藤という奴のことを思い出した。それから、彼が卒業アルバムに書いていた「天才」という言葉も思い出した。

たぶんそれは、漫画スラムダンクの影響だったのだろうと思う。しかし実際、彼はバスケにかけては天才的だった。それに顔も整っていて男前ということもあって、女子の圧倒的人気を勝ち得ていた。そう考えると、もしかすると素直な本心の言葉だったのかもしれない。

私から見ても、彼はとても格好がよかった。抜群に冴えていて、光っていた。

その彼を最後に見たのは、成人式の時だった。もう13年も前のことだ。彼の髪の毛は、まさか桜木花道をマネしたわけではないだろうが、きれいなオレンジ色だったのを覚えている。

しかしまあ、少なくとも、もうバスケはやっていないだろうことだけは明らかだった。別に本人に直接聞いたわけではないが、それくらいはわかるものだ。”意外”なことはそう多くない。

閑話休題。

今日は大晦日である。一年の終わり。自然、思考は過去へとさかのぼる。この一年だけでなく、ずっと昔までさかのぼってゆく。

みんな、何をしているんだろうなと思う。小学生や中学生、あるいは高校生や大学生のままで停止してしまっている、記憶の中の彼ら彼女らは、何をしているんだろうなと思う。

とりあえず、私は絵を描いている。当たり前のことのようだが、しかし、これはほとんど奇跡に近いと思う。たとえば10年前の自分でさえ、まさか33歳の自分が絵を描き続けているなんて思いもしなかった。翻って、いつかの斉藤は、10年後の自分がバスケをやめてしまうことを想像できていただろうか。

歳を重ねるほどに、未来はわからないとつくづく思う。それに、自分の意志や努力は、決して絶対的なものではないことがわかってくる。人生は、よく言われるように博打のようなもので、運だとか神様だとかいう言葉で表現される、何者かに翻弄されつつ抗いつつというせめぎ合いの連続である。

だから、たとえば”天才”だった彼自身、なぜバスケをやめてしまったのか、きっと自分ではうまく説明ができない。経緯は説明できても、その”核心”は説明しようがない。人、モノ、金など、この世には無限の要素が無限の組み合わせで散らばっており、それがアトランダムに作用する。バタフライ効果というやつだ。小さな蝶の羽ばたきが、遠くで巨大な竜巻を起こさないと誰が断言できるだろう。

そのように考えると、人間の無力さ、寄る辺なさを感じざるを得ない。確かなものは何もない。そう、一寸先は闇だ。

とりあえず、いま、私は絵を描いている。みんな、何をしているんだろうなと思っている。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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