CCC展覧会企画公募 NCC 2016 第8回 入賞展覧会企画: 新宅睦仁個展「コンビニ弁当の山」(静岡)2016/1/12~2/13
2018/07/20
CCC展覧会企画公募 NCC 2016 第8回 入賞展覧会企画
新宅睦仁個展「コンビニ弁当の山」
会場:静岡市クリエーター支援センター 2F・3F
会期:2016年1月12日(火)~2月13日(土)
時間:10:00-20:30
休館日:日・祝日
入場料:無料
詳細はこちら
年末年始にそびえ立つコンビニ弁当の山
あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
この年末年始にかけて、皆様方におかれましてはさぞかし美味しいものをしこたま食ったり飲んだりしたことと思います。そして何より、久しぶりの家族や親類、友人らとの素晴らしい時間を過ごされたことでしょう。
ええ、それはもう、だいたい想像がつきます。初めこそテンションも高いけれども、一通り食って飲んで話したあとは、漠然と退屈な、これでもかというほど弛緩した時間が流れ始める。心弾む特別な時間が急転直下して日常に、いやもっと、倦んだ日常に成り下がる。
年末年始に流れる時間なんて、そんなものです。楽しいと言えば楽しいけれど、本当に楽しいのかと考えるとどうも疑問が残る。あれはいったいなんなのでしょう。幸せは流れる水にも似て、眺めたり浴びたり、あるいは飲んだりすることもできるけれども、しかし結局はつかみどころなく消え去ってしまう。
正月早々、なんだかしんみりさせてしまってすみません。でも、仕方がありません。私にはしんみりする理由があるのです。2015年から2016年にかけての私の年末年始は、ひたすらに絵を描くことだけに捧げられたのです。いえ、正確に言えば、それに加えてやたらとメシを食い終始酒を飲むことに費やされたのであります。
心からさびしいと思ったのは、ずいぶんと久しぶりな気がします。さびしさは往々にして他者との比較によって生じます。一説によれば、自殺者が増えるのは年末年始をはじめ、お盆やクリスマスといった人々が集い浮き足立つ時分だそうです。
いかにも納得のいく話です。あたたかい家族、再会を喜ぶ面々、並ぶご馳走にお酒の杯も重なり、そして尽きない話と笑い声。ちょっと想像するだけで、今すぐそこに飛んでゆきたいような気持ちにさせられます。
しかし私は、そうすることは叶わない。帰りたくても帰れない。なぜなら絵を描くという仕事があるのです。真面目な話、これは本当に仕事なのです。なんといっても、今回に関しては展覧会の経費として20万円の助成を受けている。これで本気で取り組まなかったら詐欺です。ペテン師です。あるいは犯罪者として逮捕されても文句は言えないかもしれない。
それで、私は延々と絵を描きました。まったく苦役でした。だるく、苦しく、憂鬱です。苦し紛れに、2、3時間に一回くらいのペースで気分転換と称してメシを食いました。願わくばその代わりにタバコが吸いたかったのだけれども、小生はとうの昔にやめております。それで、一日4食か5食は食べました。そしてお酒も都度都度呑みました。すると少しばかり制作が楽になるものですから、自分の制作方法はジャッキー・チェンよろしくほとんど”酔拳”ではないかと思われました。
とはいえ、総じて作品は遅々としてはかどりません。時間だけがするすると流れていきます。そうしてあと数時間で今年も終わる、あるいは新しい年が始まるという頃合いとなる。今年を振り返り、来年を見定め、しかし、それはともかく実家ではみんないまごろ何をしているだろうかという思いに捕われる。
両親の、姉や妹の顔が思い出されます。かわいい甥っ子が騒ぎまくっているのが目に浮かぶようです。しかし私はひとり孤独に、黙々とわけのわからない絵を描いている。なんでもコンビニ弁当の山だそうです。日本中のコンビニから出る廃棄弁当を積み上げれば山になる。だからコンビニ弁当の山なんだそうです。おもしろくもなんともありません。馬鹿じゃなかろうかと思います。ふつうのきれいな風景や女性を描いているのならばともかく、気が狂ったようにコンビニ弁当のコロッケや唐揚げ、スパゲティ、玉子なんかをせっせと描き続けている。この楽しく浮かれた年の瀬に、何が悲しくて。
情けなくなってきます。私はなんと馬鹿馬鹿しいことに手を出したものだろうかと思います。こんなことなら絵なんて描かなきゃよかった。美術家なんて目指さなきゃよかった。まっとうに会社員をして、愚痴るだけ愚痴ってのんべんだらりとして、趣味は釣りかゴルフあたりを一年に一回くらい飲み会の余興くらいの感じでやって、それで友人や同僚と子供だか嫁だかの話を中心にしつつ保険とか株とか老後について死ぬまでぶつくさ言ってりゃよかった。そう、なんと言ってもふつうが一番なのです。
そういう”ふつうの幸せ”をふいにして、今朝、ようやくで私はおよそ縦3メートル×横5メートルにもなるコンビニ弁当の山を現出させたのであった。
労作や佳作などとは口が裂けても言うまい。駄作であり、ゴミである。そうして人に笑われるのは承知のうえである。我ながら馬鹿馬鹿しいことこの上ない。しかし、馬鹿馬鹿しいことをやる人間の存在こそが、この世界の多様性や可塑性を担保していることもまた事実なのである。
もしご都合が合えば、ふつうの幸せのひとつに違いない正月ボケの頭で、どうぞふつうではない人間の笑うに笑えない作品をご高覧いただきたい。せめて酔い覚ましにでもなればと願っている。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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