夏は君たちのもの

  2017/08/22

昨日のブログ「何もかもどうでもよくなる夏」の続き的な内容になりそうである。

家路を辿っていた。夜になり、だいぶ暑さも和らいで、すこしは涼しい風も吹いていた。

ぼくはいましがた、激安チェーン店の日高屋で、生ビールとそら豆と餃子(3個)と半ライスとイワシフライとホッピーを飲み食いしてきた帰りであった。ちなみに記述の順番は、運ばれてきた順番である。また、お会計は1246円であった。

別に楽しくも嬉しくも悲しくも虚しくもなかった。しいて言えば、つまらなかった。つまらないと言語化するほどでも、誰かに伝えるほどでもないが、確かにつまらない気分だった。

日はすっかり落ちて、あたりには暗闇とまばらな街灯の光とが、いいかげんに散らばっていた。ときに通りがかった民家からカレーのにおいなどがして、思わずお腹ではなく胸がぎゅっとなる。

わかりやすいにおいの例としてカレーを挙げたが、別になんだっていい。なんの料理かはよくわからなくとも、何か、どうしようもなく家庭的な郷愁を誘うにおいというものがあるのだ。それは、しぜんと思考を過去へと向かわせる。

おかあさん、おとうさん、おじいちゃん、おばあちゃん、それに、おねえちゃん、いもうと。それらは具体的な人物像としてではなく、獏とした灯りのようになって、頭の中に浮かぶ。そうして六つの灯りが集まって、わっと明るくなって、はじける。

それはまさに、ぼくにとって幸福のイメージそのものである。しかし、イメージといっても、それを映像として描き起こすことはできそうもない。あまりにもあいまいなイメージなのだ。それはむしろ色も形もない空気に近い。

楽しいことが減ったよなあ。最近よく思うことである。

自宅にほど近い公園に差し掛かると、歓声が聞こえてきた。それから、色とりどりの光が見えた。若者が集まって、花火をしているのであった。

あるいは花火の効果音とも思えるような屈託なくはずむ歓声が、暗闇の中で踊っていた。楽しそうだなと思った。だけど、歩調も変えずに通り過ぎた。

うらやましいと言えばうらやましいが、いまはもう、いろいろ違うんだよなと思う。おれにもあんな時があったはずなんだけどなと、空を仰ぐ。もう一度あの頃に戻れたらどんなだろうと、これもまた最近よく思うことである。

何かがまちがっていたとも、逆に正しかったとも思わないが、歳を重ねるほどに、こういうどうしようもないさびしさが増えてゆくことだけは確からしいと思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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