単純な素晴らしさ

  2017/08/22

つまり、どこにも行きたくない-STIL0005.jpg

多摩川の花火大会に行った。出無精なぼくが、明治神宮の花火大会につぎ今年二度目の花火大会である。いや、生まれて二度目かもしれない。
僕の性格をご存知の方なら知っていると思うが僕は花火大会などというものにはさらさら興味がない性分なのだ。だからして僕は花火の綺麗さ云々ではなく、「ほら、花火が上がってからドンと聞こえるまで約四秒くらいかかっとるやろ。音速は秒速360メートルだからあの花火までは約1、5キロくらいの距離があるってことだ」とかなんとかドヤ感たっぷりに蘊蓄を垂れつつビールをぐびぐびしたわけなのであるが相方は花火の表面上のきれいさに夢中でわーわー言ってて聞いてんのか聞いてないのかわからなかった、ってそれが普通だよねきっと。音速の話なんかしてごめん。って悪いと思ってないけどな!
て、それはまあいいんだけど今日は急に大雨が降ってきて、それでなぜか母の作ってくれたドーナツのことを思い出した。
母は僕が小学生あたりのころはまだ基本的に専業主婦だったから、家に帰ればいつも居て、おなかすいたじゃろうとか言ってなんやかやとよく世話をしてくれたのである。
その中のひとつにドーナツがある。ホイップとかを絞るやつにドーナツの生地を入れて、それをそのまま油の中にぶりぶりぶりっと丸く絞り出してつくる手作り感たっぷりのドーナツだった。
その味と、それを作ってる母とか食べてる僕とかの雰囲気が、雨に誘われたのか妙にまざまざと思い出された。
おいしくて、幸せだった。
そう思い出すと、たちまちノスタルジックな気持ちになってしまって、思わず目を細めてしまった。
で、専業主婦ってなんだかんだいいよなと思った。
それから母にとってあの時間はとても幸せなときだったろうなとも思った。
いや、でもそれは子供の勝手な想像でけっこうだるかったけど僕にせがまれてしぶしぶ作っていたのかもしれない。
なにはともあれ、あのドーナツはおいしかったな。
母ドーナツ作る、ぼく喜ぶ。
その単純さがいい。
理屈抜きでうれしかったり幸せだったりということがある。何かのマンガで「難しい話は抜きにしてまあ飲もうや」みたいなセリフがあったけど、まあそんな感じなんだろうな。
君がよろこぶから、ぼくがうれしいから、笑うから、とか、あきれるほど単純な感情の中に、何か一番大事なものがあるような気がする、っって、おまえはスピッツか! アホ!
なんて、夏が終わりゆくある日の夜。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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