不正な良い人
それはとても明るい、気さくな人だった。付け加えれば、いかにも善良な人だった。
おそらくは、どこの職場でも、どんな集まりでも、そのような印象と評価を受けるであろう。
そのような人が、不正を働いた。そして、解雇になった。
むろん、機密情報であるので、ここで詳細について言及することはできない。ただ、その不正は、誰でもほんのわずか、鼻くそほどの魔でも差せばわけなく犯してしまうだろう、とるに足らないことであることだけは述べておきたい。
しかし、善良な人であるだけに衝撃は大きかった。これはもう、善良な人の宿命なのかもしれない。その善良さと罪との落差でもって、世間は罪を計り、語るのである。
すなわち、あんな人の良さそうな顔して、裏では何してるかわかったもんじゃない等々の常套句の雨あられである。
とはいえ、もともと悪そうな人であれば、「ほうら、やっぱりね」となるだけなので、たいして違わないのかもしれない。
それにしても、いつも元気でほがらか、もっと言えばお調子者ですらあったあの人が、まさかと思う。これまた常套句ではあるが、”まさか”こそが現実の本質なのだろう。
年の暮れの話題もちらほらと口の端にのぼり、親類縁者も心なしか近しく感じられる、そんな時期に職を失うのは、その人の人生において一生忘れることのできない汚点となるだろう。
自業自得だとはいえ、あの愉快な楽しい人が、後悔や反省、誰かしらへの恨みつらみ、運の悪さその他もろもろに肩を落とし真顔でいる光景は、ちょっと、想像するだに忍びないものがある。
まあ、ぼくが感じているその忍びなさもまた、善良さと罪との落差からきているに違いない。しかし、それを差し引いてもなお、かるくは受け流せない、感じ入るものがある。
それはぼくの良心によるものか、あるいは人の不幸をゴシップ的に消費しようとする下卑た精神によるものか、どうか。自分の心ながら、計りかねている。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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