やはり犯人は子供達だった

最終更新: 2017/08/22

つまり、どこにも行きたくない-F1000125.jpg

穴の話。
やっぱり犯人は子ども達だった。よく僕くらいの年齢の男子は“ガキ”とか言うけれど、なんだかぼくはその単語の響きに抵抗があって、できることならあまり使いたくはないと思っている。
本当なら「ガキどもが馬鹿みたいに穴掘っててうざったい」ぐらいのもんなんだろうが、僕はそんな言い方はしたくない。「子ども達が無邪気に穴をお掘りになってて微笑ましい」と言いたい。内心ギャーギャーうざったい気持ちがゼロではないが、子どもは微笑ましい存在だと思いたい。
で、僕は微笑ましい気持ちで彼らを見るともなく見ていた。
その中の一人が言った。
「おれ、電気ドリル持ってくる!」
そう言って、自宅だろう団地の中へ駆けて行った。
僕は彼の境遇を少し不憫に思った。自宅に穴を掘るための「電気ドリル」があるなんて。きっと親御さんは筋金入りの肉体労働者なのだろう。そして自宅にそのような重機があるということは、「○○組」とか(有)とかそういう小さな下請け会社で、この不況でぜえぜえ喘ぎながらも穴を掘るしかない、わての財産はただこの肉体じゃきに、がはははは……とそのまま脳梗塞で帰らぬ人に、というような家庭が垣間見えるようだったから。
泥だらけの作業靴がころがる玄関、部屋と部屋の境目の鴨居かなんだかよくわからないような出っ張りに無造作に掛けられた○○組の作業服、激しい疲労による甘い尿が飛び散りある種の懐かしさがにじむトイレ、汗臭さがツンとくる脱衣所、しかし食卓に並ぶ料理はいつも豪快でひどく旨そうに湯気を立てている………
と、肉体労働者の息子が戻ってきて、言った。
「お母さんが電気ドリル駄目だって」
そりゃそうだ。だって商売道具だもの。それこそ「遊びじゃないんだよ!」というわけだ。
しかし子供らはなんら拘泥することなくみんなで仲良く力を合わせて穴を掘り続けていた。
僕は微笑ましさをかみしめつつ、一人その場をあとにした。
そして今日、例の穴を見てみたらしっかり埋められていた。一見して“ガキ”の仕事じゃないことはらかだった。
当たり前だ。お父さんは遊びじゃないんだYO!

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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