お宅で呑もう

  2016/04/08

外食のない家庭で育った。

それは言い過ぎだとしても、外食の記憶はあまりにも少ない。

一番古い記憶として、今はもう潰れてコンビニになっているファミリーレストランがある。名前は忘れた。一階が駐車場で、二階が店舗になっている典型的なファミレスではあるが、あの頃は妙な高級感があった。とてもきらびやかな記憶として残っている。

それから回転寿司。これはけっこうよく行っていた気がする。と言ってもせいぜい半年に一回くらいのものではあるが、いつからか外食と言えば回転寿司だった。

あと、例外としてはピザの宅配サービスがある。ピザという食べ物が知られ始め、デリバリーが出始めたころだった。物珍しさから注文したのである。たぶん、出資者は祖父である。「ピザぁ言うのがあるらしいが、どんなもんかのう。久子さん、ひとつ頼んでみてくれんか」たぶんそんな感じでざっくり一万円札を母に渡したのだろうと思う。

今は亡き祖父は、バナナに醤油をつけて食べるのが好きだったこともあり、風変りな人であった。手榴弾を”パイナップル爆弾”と呼び、孫である私(小学生)に「1、2、3でホイ! 投げるんよ!」と、懇切丁寧なレクチャーをしてくれたこともある。あるいは、パート先の新聞配達所でもらってきたらしいポルノカレンダーを、皆がごはんを食べる場所で広げ「ここに貼ってもええかのう」と母(私は小学生)に聞き、困惑どころか錯乱させていたりもした。やはり、戦争に行くと少なからず脳がやられてしまうのだと痛感したものである。

閑話休題。

とにかくは外食が少ない家庭で、いつも自宅で家族そろって食べていた。その実家では、今でもそうだ。親戚や友人が来ても、みんなで飲みにいくというようなことはまずない。自宅で延々と、ぐびぐびぺちゃくちゃげらげらやっている。いわゆる宅呑みである。

あるいは、新宅家にはそのような文化、伝統とも言うべき宅呑み文化が形成されているのかもしれない。新宅だけに。

つい先週も、台東区に越したばかりの新宅家の新宅にて宅呑みが開催された。早口言葉みたいだが、ごく適正な”宅”の使い方である。

私と相方、友人とその彼女の4人である。私は三日前からおでんを煮込み、相方は前菜的なものを作った。おでんが特に好評だったような気がするが、私としては相方が作った海ブドウに山芋をかけた小鉢が一番おいしかった。だが、あえて作り方は聞かない。仮にも私は調理師なのである。私がすべて作れるようになってしまっては、二人でいる意味がないだろう。

終電ぎりぎりまで飲んで、笑って、彼らを駅まで送ってお開きとなった。家に帰ると、テーブルの上や炊事場は惨憺たるあり様であった。しかし、新宅家の伝統としては、こういう後片付けを面倒がらず嫌がらず、むしろ「よう食べてよう飲んだねえ」と喜ぶのである。

まあ、それをやるのは先にも登場した母、久子である。”きゅうこ”ではない。”ひさこ”である。

だんだん、相方が久子に見えてくる。むろん、見た目は天と地ほども違う。結局、男は母のような人に惹かれ、女は父のような人に惹かれるようにできているのだろうと思う。

今週末もまた宅呑みである。新宅家の伝統の、宅呑みである。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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