美術家 笹山直規に頭が上がらない

  2020/08/19

今夜は待ちに待った、私の師と言っても過言ではない笹山直規氏の展示のオープニングである。

以下、詳細である。

笹山直規+釣崎清隆展覧会「IMPACT」
会期:2015年12月13日(日)~12月20日(日) 13:00~20:00
オープニングレセプション:13日(日)18:00~
イベント:13日(日)18:00~笹山直規+釣崎清隆によるアーティストトーク
会場:素人の乱12号店(東京都杉並区高円寺北3-8-12 フデノビル2F)
http://naonakamura.blogspot.jp/

なぜ彼が師なのか? 先日も、とある美術家仲間に「新宅さんは笹山さんの弟子なんですか?」と聞かれた。露骨に弟子かどうかと言われるとちょっと返答に困るが、しかし、まあそう言われるのもやぶさかではない。彼の作品には影響を受けたというか、ほとんど模倣して今の自分がある。パネルの水張り方法、水彩絵具の使い方、水彩画用紙の選択、それから彼の作品を購入して、つぶさに研究させていただいた。

だからと言って比較されると困ってしまう。彼の技術は私にとってはるか高みにある神のような存在であるので、比較も何もあったものではない。少しでも近づけるよう日々精進するのみである。

にも関わらず、今年の半ば、展覧会でご一緒させていただく幸運を得た。大阪にある『ART SPACE ZERO-ONE』にて開催した『美術食堂~食べるところから新しい芸術は生まれる~』である。

詳細は以下URLをご参照いただきたい。
http://bijutsushokudo.com/

とにかくは、彼との出会いが私の人生を変えた。今年私にあった入選や入賞といった飛躍のすべては、彼との出会いなくしてあり得なかった。これは本当である。そういうわけで、彼にはまったく頭が上がらない。今夜の展示やトークでは、心して拝見、拝聴させていただきたいと思う。

頭が上がらないといえば、もう一つ思い出されることがある。相方のことである。

美術食堂のオープニングがあった夜、私は相方の手配した大阪のホテルに一泊した。翌日、ほんのビール1、2杯程度の食いだおれをして、帰路についた。

それにしても、男と女というのはよくわからないことで揉めるものだ。はたから見ると頭がおかしいんじゃないかというようなことで、本気で怒っている。しかし本人たちは大まじめでぶち切れている。そのときも、そんな感じだった。

それで、私は新幹線のホームで、相方をはるか後方に置いて先々歩いて行っていた。ちょうど停車していた東京行の新幹線の発車のベルが鳴った。後方を振り返るが、相方の姿は見えない。しかしまあ、これしかないのだからこれに乗るだろうと、私はひとり乗り込んだ。

空気の収縮する音がして、ドアが閉まる。走り出す。加速する。ホームにある事物が次々と後方へ押しやられてゆく。その事物の一つに相方があった。相方は、私を探してきょろきょろとしていた。あっという間に視界から消え去った。その姿はいかにも哀れであった。私は窓ガラスにしがみつき、爪を立てた。それはまるで宇宙船のモニターに映った、地球にいる愛する家族の姿を撫でて触れようとするような、どうしようもない隔絶間であった。

終わった。漠然とそう思った。私はその光景を一生忘れることができないだろう。実際、今でも時々思い出して、それを思い出すと、ぎゅっと胸が締め付けられ、ひどく申し訳なく思い、もっと、土下座して足にキスしたいような心持ちになるのである。

それから半年ほどが経った。いまだに頭が上がらない、と言いたいところだが、性懲りもなく上げてしまった。そうして、今もまたちょうど男女にある犬も食わない状態になっている。

大阪以来ということもあり、今夜の笹山さんの展示に行こうと誘ってはいるが、相方が来てくれるという保証はない。思う。いい加減私は心を入れ替えて、反省せねばなるまい。何があっても、私は笹山さんへのリスペクトを失ってはならないと重々戒めているように、相方へもそれなりの尊重が必要なのだ。

時間は流れる。技術は進歩する。次は新幹線では済まないかもしれない。リニアモーターカー、スペースシャトル、あるいはタイムマシンさえ登場するかもしれない。そのとき、すれ違いはいよいよ今生の別れとなるだろう。

会場で邂逅できることを祈っている。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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