ものすごく新しくて、ありえないほど古い。

わたしはエロい。

しかし歳を食ってしまったので、そこらを犬のようにほっつき歩いて小便をかけて回るわけにもいかない。しかもコロナ禍で、緊急事態宣言まで出ているのだから(2021年5月27日時点)、あとは家にこもって妄想でもする他ない。

39歳、独身。実家の風呂につかって考えた。未来、かつての浮世絵が実写のエロ本になり、エロビデオになり、エロ動画になり、エロVR(仮想現実)になって、そして間違いなくゾゾスーツ*みたいなやつを着用してずっぽりエロVRだかARだかの世界に没入することになる。

べつに私がオリジナルで想像したわけではない。かのイーロン・マスクの友人が、この先10年の未来を鮮やかに描き出した『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』を読んで間違いなくそうなると思っただけのことである。

着用したスーツに通電すると、それが自由自在に動く。高周波や低周波の治療器を考えてみればよい。筋肉に直接作用する、あの感覚だ。応用すれば、AV女優の動きをキャプチャーしてそれを電気信号として再現することも可能になる。そしてVR機器を装着してゴニョゴニョ……。

正直、私はそのような時代の到来が楽しみだ。楽しみで仕方がない。そうすれば、恋人や妻の有無、あるいは不貞もクソもなく、完全に自走、自己完結できる―――だが、待てよと思う。エロはともかく、そのような技術は当然、殺人など、暴力的な行為も可能にする。

刺す感触、殴る感覚、相手の反応、歯が折れ、骨が砕け、血の匂いが満ち満ちて――そういったすべてが現実に限りなく近づく。いずれ視覚や聴覚、触覚だけでなく、五感のすべてが完璧に再現されるようになる。

そんな世界で、毎晩バーチャルの世界で大量殺人を行っている人は、果たして正常だろうか。穏やかで堅実な家庭を築きながら、日夜バーチャルの世界で乱交パーティに勤しむのは健全なのだろうか。

いまのところ、バーチャルな世界でならば、何をしてもよいことになっている。しかし、

だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。

と、2000年も前にキリストが言っている。この非科学的な言葉を現代の人は笑うが、笑うに笑えない日が来るのではないか。

むかしの人は偉いと言いたいわけでもない。ただ、人間は木から降りてサバンナに出たころ、400万年前とも言われる時代から、性能、スペックとしてはなんら変わっていないという事実を思うだけである。

ちょうどいま読んでいるイギリスの作家オルダス・ハクスリーが1932年に発表したディストピア小説『すばらしい新世界』の内容は、私の妄想と奇妙に符合する。

西暦2540年、フリーセックスが奨励され、「みんながみんなのもの」となり、愛とか結婚とかいう独占・所有は悪、もっと、穢らわしいとされる世界の話である。

人間に近いと言われるオランウータンの乱婚・乱交を例に上げるまでもない。それはディストピアでもなんでもなく、動物に過ぎない人間の本性で、単なる原点回帰でしかないのではないか。

話は変わるが、昨今、回転寿司は回らなくなっているという。実際、かっぱ寿司などは、すでに回転レーンを廃止したそうだ。

そもそも回転寿司は、多数の客の注文を低コストで効率的にさばくことを目的として発明されたはずだったのだが。

われわれは、とてつもない遠回りをして、ただ、懐かしいもとの場所にもどろうとしているだけなのかもしれない。それを発展というべきか、進化というべきか。

とりあえず、むかしむかしの旧約聖書にはこうある。

思うに、この世に価値のあるものなどない。すべてがむなしい。

たぶん、そういうことだろう。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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