トランプの贈り物

先月27日、米大統領トランプは、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国からの渡航者の入国を90日間停止する大統領令を出した。言うまでもなくムスリム・バンのことである。

これに対する反応は、当然ながら苛烈を極めている。各地で抗議デモが起こり、一部は暴徒と化した。イランの外相は、トランプの決断は「イスラム過激派への偉大な贈り物だ」と皮肉ったそうだが、まさにその通りであろう。過激派の士気を高め、テロ実行の大義名分となることは政治に疎い者でもわかりそうなものだ。

ある調査によると、このトランプの政策についてアメリカの世論は真っ二つに割れているという。しかし、私にはほとんど反対で一致しているように見える。というのも、アップル、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、ツイッター、そしてスターバックスといった大企業が、揃いも揃って批判の声を上げているからである。

これらの企業はいっそ国家にも匹敵する力を持っており、国家間にあるのと同様、複雑な利害関係で絡み合っている。にも関わらず意見の一致をみているのである。それがどういう意味を持つかは言うまでもないだろう。

トランプは独裁者だ、史上最悪だ、その他あらゆる批判がSNSを飛び交っている。これからのアメリカの未来を、ひいては世界の未来を憂う声も夥しい。しかしどうして、私には彼らが妙にいきいきと活気づいて、どうかすると楽しげにさえ見えるのだ。

昨今、価値観の多様化、個人化が進み、嗜好から思想までまるで共通項がないということも珍しくない。それが天気の話のようにぴたりと一致しているのである。このような事態の類例は、日本においては高度経済成長期にまで遡らねばならないのではないだろうか。欲しいものと言えば、みな口を揃えてテレビに車と言っていたような時代があった。今では人の欲しいものなんて、とても検討のつくものではない。

それが今、トランプと言えばみな一様に似通った反応をする。シンガポールで出会う外国人でさえ、awful(ひどい)というような反応で一致していたりする。私もまた同意して、そして生じる連帯感は、どうしてトランプの暴力性に反して滑稽なほど牧歌的に思われる。

きっと、人間は対立項なしには存在できない生き物なのだ。何かに反発したり、抗ったりすることでしか、人は協力したり団結したりすることができないのだ。それは歴史において謀反やレジスタンスの類をちょっとひもといてみれば容易に首肯されることだろう。

時代がいくら進んでも、結局のところ人は寂しがり屋で、誰かと繋がりたくて、解り合いたくて仕方ない生き物だから、今回のトランプのことで、どこか救われたようなところがある人も決して少なくはない気がしている。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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