あの冬とこの冬

  2020/08/19

路面が凍っている。早足で歩くとすこし滑る。もちろん息は白い。

一年の中で2月が一番寒いんだよなと思う。こんな寒い2月の今頃に、上京したんだっけなと思い出す。

福岡から単車にまたがって、凍傷にも近いようなしもやけになって東京に辿り着いた。

ちょうど十年前になる。なんかいろいろ夢見てたけど、想像とはずいぶん違ったなと、十年後のいま現在を思う。

漠然ときらきらとしている、輝かしい何かがあるような気がしていたけれど、ご多分にもれずそんなものはあるわけもなかった。そもそも、そんな妄想と根拠のない期待は、世界中のどこにもない。

ここではないどこかを求めるのは人間のサガともいうべきものなのかもしれない。あるいはぼくの根深いサガであるのかもしれない。

人生が急速に色あせて、萎んでいくような、そういう感覚がある。

単なるペシミズムでもあるだろうが、しかし実際、大人になって、十分に大人になって、成長や成熟というよりも、悲しき老いというものが忍び寄ってくる段になってみると、ああ、これはもう、気の持ちよう云々というよりは、これからは、ただひたすらにひとつずつ諦めてゆくことこそが求められているのだろうなと思ったりもする。

その歳その歳にふさわしい思考や行動様式というものがある。それが、どうも作り出せていないのではないだろうか。

すべきことが、もっと何か他にあるような気がする。逆に、やるべきことはやれていて、すべてが正しいような気もする。わからない。とにかくは、いま現在が大きな誤りの中にあるような気がする。

なんか、自分のやる事なす事その存在も含めて、なにもかもが嘘くさくて安っぽく感じられる、この冬。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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