平均をとる

昔はモテたと人は言う。

たいがいはおっさんであるが、とにかくはそんなことを言う、というか、ほざく。

で、昔はモテたと、例によっておっさんになった私は思う。特に大学生の頃なんかはモテモテだったよなと、そう私の脳みそには刻まれているが、裏を取るような野暮なマネはしないでほしい。

モテモテだった私は、持てる者としての富豪と一緒であったので、こんなことを考えていた。

関係が盛り上がっている初期に、好きだ好きだと連呼するのはやめようと。なぜなら、2、3ヶ月もすれば普通になって、飽きてもくるのであって、初っ端からそんな甘言を垂れ流していたのでは、のちのち相手は私の態度の変化に嫌でも気がついてしまう。

だから私は、先を見越して、平均をにらんで、慎重に、ごくたまにだけ、好きとか、そういう愛情表現をしようと心がけた。

それがうまくいったかどうかは知らない。とりあえず、38歳でいまだ独身であることがその結果ではないかと思われなくもないが、しかし、とにかくはそうやって生きてきた。

平均、最近の言葉で言えば持続可能性、サスティナビリティなんて表現もできるかもしれない。

人生とは、一つのバカでかいケーキである。それをどう食べるかは自由だ。私のようにケチな人間は、端をつついて、フォークを舐めてと、やたら時間をかけて食べるのが常である。

しかし、そのケーキはナマ物である。食べている間にも、着々と腐ってゆく。しかしそれでも私はもったいなくて、大胆に食べることができない。腐っても捨てることができない。

平均をとることは安全であるかのように思われている節があるが、違う。平均をとることは、疑いなく愚かであり、損であり、危険でさえある。

そのことに、最近やっと気がついた。それで私は、好きだと思える人やことには、いま、全身全霊でエネルギーを注ぐ。明日ぜんぶ冷めても後悔しない。いま、ぜんぶ使う。使い切る。明日死んでも後悔しない。

好きな食べ物だって、昔は最後に食べるタイプだった。今は真っ先に食べて、嫌いなものはそのまま残す。もう、いつ死んでも後悔しない。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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