美術家 新宅睦仁のブログ。ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

アメリカで家を借りるまでの話(前編)

    2019/04/23

ロサンゼルス国際空港に降りたったのは、2019年3月29日の日暮れであった。

Skype面接のみで採用が決まったため、アメリカの土を踏んだのはこれが初めてだった。それで友達も知り合いも土地感の欠片もなかった。

しかし現代はインターネットの時代であるので、そんなことはたいした障壁ではない。ググれカス*よろしく、調べれば99%のことはわかる。
*電子掲示板やチャット、SNSなどで、なんでも聞きたがる人に対して「ググれカス(野郎)」と使われる。(コトバンクより)https://kotobank.jp/word/ggrks-188462

初日はロサンゼルスの中心部にあるモーテルを予約していた。そこに到着したのは夜中の9時を回っていたが、荷物を置いて食べ物と酒を買いに出た。辺りはすでに暗く、どこか退廃的な空気が漂っていた。

スーパーの買い物カートに家財を満載したホームレスの男がなにやらわめいていた。あとでわかったことだが、その辺はあまり治安のよいところではなかった。実際、酒屋の前に立っていた男から、銃の国のにおいといおうか、とにかくは今まで味わったことのない恐怖を覚えた。

二日目からは、「Airbnb」で二週間ほど予約している場所に移った。日本でいう民泊である。その日のうちに、事前にアポを取っていた部屋の内見に行く。ちなみに部屋探しに使ったのは、「Roommates」、「Roomgo」、「Spareroom」、そして「Craigslist」というサイトである。

正直、「Craigslist」以外おすすめできない。他のサイトは、掲載主にメッセージを送るためには課金を要するという、エロくないのにエロいシステムだからである。しかし、あるいは米国ではこのようなビジネスモデルがふつうなのかもしれない。しかし私は純ジャパニーズ中年男性であるので、エロくないものに払う金はないと言いたい。

そして向かった内見。予算は800USDでマスタールーム(個室+バス・トイレ専有)。シンガポールでもそうだったが(2016年11月〜2018年12月まで2年間在住)、日本のようなワンルームというのは海外では一般的ではないらしい。もし日本の典型的な一人暮らしをするためには、日本円にして月15万円程度が最低ラインで、それでも見つけるのは容易ではない(シンガポールとアメリカで、酒以外の生活費の差はほとんどない)。いきおい、ふつうの日本人はルームシェアするしかない。

さて、一件目は家具なしバス・トイレ共用のシェアハウス(750USD)であった。部屋の広さは悪くないが、他に三人の日本人男性が住んでいるという時点で私の候補から外れた。アメリカくんだりまで来て何が悲しくて日本人と住まなければならないのか。案内してくれた初老のアジア系男性は、しきりに部屋のカーペットが汚いから、新たに板張りにリフォームするという点をおしてくるが、そこじゃない。考えさせてほしいと言って引き上げた。

二件目は家具付きバス・トイレ共用のシェアハウス(675USD)。在米十年くらいの気のいいフィリピン人男性で、部屋の案内の前にひとしきり身の上話をされるが、嫌いではない。部屋の広さは六畳弱で非常に狭いが、まあ我慢してもいいかもしれない。と、冷蔵庫の中まで見せてくれたのだが、そこにあった納豆で正気に戻る。またしても他に日本人男性が住んでいるという。早く言ってほしい。

私が新参者のジャパニーズのせいか、内見依頼に対する反応は思わしくなかった。予防線を張るべく、在ロサンゼルスの日本人間では有名な「びびなび」でも探し始める。このサイトは日本語で運用されており日本人向けなので、できれば使いたくなかった。

後日、三件目は家具ありバス・トイレ専有のシェアハウス(925USD)。ここにきてようやく純アメリカンのお宅である。キャップをかぶった体格の良いアメリカ人で、べつにハンバーガーなんか食ってないのにずっと食ってるような雰囲気がある。

部屋はマスタールームと掲載されていたにも関わらず、バス・トイレ共有だと自信満々で案内される。初めてルームメイトの募集をかけたというだけあって、家賃相場もだがわけがわかっていない。しかし英語の発音が素晴らしくて許してしまう。払ってもいいかもしれない。こんなネイティブと暮らせたら、英語力もきっと向上するはずではないか。頭の悪い胸算用で、胸がふくらむ。しかし彼の表情は固い。

話を進めようとする私に、彼は言う。

「確かにおまえはいい奴そうだとは思うけど、まだ来たばっかりでリファレンス(同僚・知人からの紹介状)なんかないだろ? それっておれにとってすげえリスキーなんだよ」。

私はあまり住む気もないのに(どう考えても家賃が高い)、勢いで食い下がった。身分証明書類はちゃんと提出するから問題ないと主張した。だが「Paper work is paper work」(書類は書類でしかない)と、これまた素晴らしい発音で言われると、理屈抜きで「Cool!」(カッコいい)と思ってしまい、返す言葉が見つからなかった。

彼は「とにかく一晩考えさせてほしい」と言って、翌日、きちんと断りの連絡が来た。とりあえず彼は、というかアメリカ人はなかなか誠実だと思うが、どうだろう。

『アメリカで家を借りるまでの話(後編)』はこちら

新宅 睦仁

1982広島県生/2005九州産業大学卒/2013新宿調理師専門学校卒/現代美術家/ロサンゼルス在住のカトリック。牛丼やカップヌードル、コンビニ弁当等、食物をテーマに作品を制作している。無類の居酒屋好き。

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