ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

サイクリングに行かないか(前編)

  2017/08/01

「自転車こげるか」――そう聞かれて「こげない」と答える人がどれだけいるだろうか。少なくとも日本の成人でそんな人はテレビの中にしかいない。

こげますよと言うと、その五十がらみのシンガポール人女性は続けた。「サイクリングに行かないか」そう言われ、気軽に了解したのは教会の日曜ミサの後だった。

数日後、集まったのはいわゆる華金の夜、7時半。普段ならとにもかくにも飲みに行っている時間である。しかし9時ごろからはみんなでディナーだと言っていたから、ちょっとばかり自転車をこいでビールで乾杯と言ったところだろう。

定刻を過ぎてまもなく、例のシンガポール人女性が車で現れた。私は同乗し、それから約5分、イーストコーストという日本でいうところの湘南のようなところに到着する。辺りにはいくつもバーベキューピットがあって、肉の焼ける匂いが潮風に混じる。

海岸沿いのレンタル自転車屋で、他のメンバーと落ち合う。と言っても、私を含めて計三人でしかない。発案者のシンガポール人と、もう一人はフィリピン人。いずれも子持ちの主婦である。

自転車を借りると、シンガポール人が自前のポータブルライトを私とフィリピン人の自転車、そしてバッグに装着してくれる。セーフリー(safety)を連呼して、安全が大事だと言う。夜道でもあるしそれはわかるのだが、どうして、彼女はゆうに10個はライトを持っていた。

準備がととのい、一行は走り出す。ギアの切り替えを試しながら、二人のあとを追う。自転車なんて、何年ぶりだろうか。前に乗っていたのは、国立に住んでいたころか。それはともかく、夜風が心地良い。そうだ、風を切るというのはこんな感じだった。かつて単車に乗っていたころを思い出す。好きだったよな、バイク。もう一度乗ってみようかしら、なんて。

走り始めて10分と経たないうちに、深々とした森に差し掛かる。あたりは黒く静まり返り、無数の虫の鳴き声が響く。少しスピードを上げて、彼女らに並ぶ。「どこまで行くんですか?」シンガポール人が「マリーナベイサンズ」と答える。まさか、遠すぎるよ、冗談でしょと笑うと、彼女らもまた笑った。

サイクリングに行かないか(後編)につづく

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