ミサイルに言って聞かせる

性懲りもなく北朝鮮がミサイルを発射したらしい。しかも今回のは日本の国土の上空を通過したという。

政府はまた例によって極めて遺憾だとか強く抗議するだとかの定型句を並べている。そういうのはもういいかげん聞き飽きた、というかいよいよ空々しい。

9条があるから何もできないのかもしれない。日本はあくまでも高邁な平和の理念を貫かねばならないのかもしれない。では、日本国家はガンジーよろしく誇り高く非暴力主義に徹して、たとえ日本が消滅しようとも決して武力には訴えないのかといえば、決してそういうわけではない。日本はただ、何もできないでいるだけである。

今、どうすべきか。国家単位で考えるから曖昧になる。個人に置き換えてみればわかる。たとえば、あなたの隣の家から、不定期に糞尿が飛んでくる。しかし、今のところ直接の被害はない。いつも垣根のぎりぎりでそれはとどまる。

あなたは毎度毎度、誠心誠意、抗議する。しかし、隣人いわく「これはあくまで堆肥です。別に悪意はありません」と、やにさがる。

そんなやりとりが続いたある日、あなたはあなたの家の上空をくだんの糞尿が飛んでいるのを目撃する。しかしまたも直接の被害はなく、あなたの家の裏にそれは落ちる。

あなたは再び、抗議する。しかし、隣人もまた同じ戯言をのたまう。この不毛なやりとりを、もう何度したか知れない。

あなたの家族は不満、不安を募らせている。それに対するあなたの答えはおざなりで、「抗議はしといたから」と、正直なかば諦めている。そこにもはや実際的な望みはなく、自分と家族をなだめる言い訳へと堕している。

話せばわかるというのは、耳ざわりばかりの、安っぽいエゴイズムの隠れみのに過ぎない。きっとわかってくれるだろうと期待するのは勝手だが、この世には話してもわからない人が確実に存在する。ときに逮捕される騒音やゴミ屋敷の人たちがいい例で、彼らは国家権力によって強制的に退去させられるまで決してひるまず頑ななのはご存じであろう。

完全に徹頭徹尾クリーンな人生などあり得ないのである。まともな大人であれば誰でも知っていることだ。ときに人はやりたくないことも目をつぶってやらねばならないのである。かような人間の集まって作られた国家とて、何の違いがあろうかと、私は思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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