初めてじゃない外国
2021/11/08
わたしは日本人。広島の片田舎の平凡な家庭で何不自由なく育ったが、今、外国にいる。オランダにいる。住んでいる。
何かもうすこし、感動というか、気分の高揚くらいあってもよさそうなものだけれども、ない。
外国に住む、初めての時は違った。シンガポールに降り立った朝のことは今でも忘れない。
早朝6時ごろ、現地の空港に降り立つと、あたりはいまだ真っ暗であった。
私はこの世が終わってしまったんじゃないかと目を疑った。いや、冗談抜きで。
シンガポールは常夏の国。それで日本の夏がずっと続いている国だと考えていた私は、日本の夏なら当然あかるくなっていてしかるべき時間にいまだ日の出ていないことにすっかり肝をつぶしたのだった。
地球は回っていることも知っていたし、時差があることも知ってはいたが、どうして、日の出日の入りの時刻の異なることまでは頭が回らなかったらしい。
そんな調子だから、はたしてシンガポールでの生活は私を圧倒して、世界観をこれでもかと拡張した。驚きと感動の連続なんて表現が陳腐ではない程度には、あれほど私に大きな影響を与えたものはない。
その後、勢いでロサンゼルスに住み、そして今、オランダへと移ってきた。
べつにこれといった理由はない。オナニーと同じで、一回やったら案外よかったから、またやりたいと思ってやってみたくらいのものである。
誰でも知っているように、初体験の感動は二度とない。死ぬまでない。どう頑張っても、毎回そのいつしかのピュアな感動をなぞることしかできない。それは言うまでもなくむなしい。
むなしい。とてもむなしい。しかし私は、それをいちいち確認するのが好きなんだろうと思う。
世界のなんたるかも知らずに言うのではなく、その大きさ深さ多様性、そして美しさ素晴らしさを完全に理解したうえでなお、ドヤ顔で否定したい。
ほらみろ、やっぱ人生なんて何やったってむなしいんだって、ハハハ、と。

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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