その人、父になる。

彼に子供が生まれたということを知ったのは、飲み会という名の合コンに行った帰り道であった。

Facebookという公の場で、彼はその腕に真新しい子を抱いて、笑っていた。もちろん、そんな画像は珍しくもなんともない。しかし、彼は私がこの世で唯一「親友」と呼べる存在であるために、それは私の目に非常な感慨をもって映った。

生まれたのは男の子だとあり、すでに何十件ものコメントが連なっていた。遅ればせながら私も二言、三言つけ加えたが、一時間もしないうちに熱っぽい祝いの言葉の波間に消えた。

昔から私は、人を祝福するというのが得意でない。というか、それはいったいどういうことなのか、いまだによくわからない。たとえば誕生日、たとえば結婚式。それが親兄弟でも、どこまでも他人事で、埋めがたい距離感がつきまとう。

今回も例外ではない。特に、うれしくない。めでたくもない。それでも、おめでとうとは言う。このおめでとうという白々しさを、私はいつも持てあます。

おめでとう。べつに、そんなこと、これっぽっちも思ってはいないのだけれど、おめでとう。

ただ、おまえが父になったのだという事実が、いまの私を明らかにするということには、いくらか感謝すべきかもしれない。

人はよくも悪くも自分を映し出す鏡だ。人との距離を測ることによって己を知る。それで、私は知った。

かつて私たちは同じ夢を追い、あまりにも近かっただけに、いま改めて測るその距離はほとんど天文学的で、めまいがするほどだ。かたや所帯持ちの父となり、かたや性懲りもなく女の尻を追いかけているような身の上。

むろん、どちらがどうという問題ではない。ただ、そのような現在を、私たちの来し方行く末を、しみじみと辿り、巡るだけだ。

それでまあ、ひとつ思う。おまえは私と違ってよくできた男だから、よい父親になるだろう。そしてよい家庭が築けるだろう。だけど、そうなるようにとかは、願ってもないし、祈ってもない。放っておいてもそうなる。人生って、そういうものだろう?

遠からず私たちの距離はいよいよ広がって、いずれ別次元にも及ぶことはわかっている。正直、それは寂しくもあり、悲しくもある。でも、おめでとう。こういう時におめでとうと言ってこそ、親友なのだろう。だから今は、おめでとう。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  関連記事

やらない善よりやる偽善。

2012/04/22   エッセイ, 日常

唐突に本題に入るけど、人間の本質ってのは、いったんなんなんだろうか。日常会話でも ...

残された理由

たまに、人がごはんを残しているのを見かけることがある。 それは、トンカツのキャベ ...

いつもの、道楽としての居酒屋通い

書きかけになっている立川に行った話を続けたいところなのだが、時間の経過とともに自 ...

理解できたらおしまい

子供の頃、大人の話がわからなかった。親戚など集まった時にはなおのことだった。とに ...

ここはアメリカ

「ここはアメリカなんだよな」と、たまに思う。 それはスーパーで買い物をしていると ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.