ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

風邪を引けばエロくなる

  2020/01/20

男は風邪をひいた時が一番エロい。

それで昔は、学校を休んだ日、母がパートにでかけたあとなんか、よくエロ本を読んでいた。いや、見ていた、もしくは使っていたものである。

さて、新年早々タチの悪い風邪をひいた。丸3日間寝込むはめになり、その間、私は布団にくるまってひたすら本を読んだ。

一冊目は「封印されたアダルトビデオ」という本で、様々な理由で発売禁止となったエロビデオが紹介されている。

マゾの男が海外でキリスト教の祭りに参加し、掌に釘を打たれて磔になった話や、若くして亡くなったAV女優の墓にSMプレイと称して墓石を鞭打つとか、あるいは包茎手術で切り取ったその皮を焼き肉にして食うなんて話で、朦朧とした頭でもすんなりと読める。むしろ覚醒する。

二日目になっても風邪の治る気配はない。しかし、アメリカの薬は確かによく効く。その分、薬が切れたことがはっきりとわかる。熱はいまだ下がらず、トイレに立つのも難儀である。ハアハア言いながら次に読み始めたのは「セックス障害者たち」。先の本に登場したAV監督の単著である。

実に淡々と、あのレイプはこう撮った、このスカトロはああ撮ったという制作秘話が語られている。あの女はブスで使い物にならないなんていう記述が頻出するので、訴えられるんじゃないかと読んでいるこっちがひやひやする。いや、私は熱があるので熱い、すごく。

実際、彼はフェミニズム団体に粘着質に絡まれ吊し上げに合っている。あるレイプものの作品について、あれはノンフィクションに違いない、人権侵害だと糾弾された時のことを監督は述懐する。

『「どうしてあんな演出ができるんだ」って言うから、「しようと思ったらできますよ」と。そうしたら「これが演出だったら、あなたは黒澤明以上で、女優さんは大竹しのぶ以上だ」と。そう言われれば、「ありがとうございます」としか言いようがないですよ』――行き過ぎた正義はしばしば喜劇である。

メイドインアメリカの風邪だけあって手加減というものがない。外国で一人、孤独に床に伏す。冗談抜きで、死さえよぎる。夜になり、熱が上がり、せきがひどくなる。ぼんやりと、どうもあのAV監督には非人間的なものを感じるなあと思う。

そして手にした三冊目は「性犯罪者の頭の中」。AVは犯罪ではないが、そのにおいがすることは否めない。いくらクリーンなイメージを打ち出しても、やっていることは未来永劫、日陰で湿っている。いやもっと、濡れている。

性犯罪者と言えば痴漢である。居酒屋に行けば誰しもとりあえず「生で」というくらい痴漢である。彼らについて、よくニュースでは「ムラムラして、つい」などと動機が語られるが、そういう人はごく少数だという。彼らはもっと冷静で計画的。そう、痴漢とて馬鹿ではない。

むろん、痴漢という行為は愚かで馬鹿者には違いないが、決して痴漢野郎その人は馬鹿ではない。馬鹿なのは男それ自体である。だから、元始、女性は太陽であったかどうかは知らないが、本質的に賢い女性には、男が理解できない。死ぬほど馬鹿だから。以下、痴漢でお縄となった息子の両親のケアを行っている医師のコメントはその真理を物語ってあまりある。

『父親のとらえ方は、「男だから願望があるのは理解できるが、実際に行動してはいけない」というのが典型的です。一方で、母親や妻の場合は、「なぜ女性にそんなひどいことをするのか全く理解できない」と言います。』

あるいは男なら誰しも一度はAV男優になってみたいと思ったことがあろうが、とうてい女性には理解できない。こればかりは男女平等、相互理解云々のきれい事で乗り越えられるものではない。そう、男はどうしようもなくエロい。もちろんエロい女だっているだろうが、男は女の理解を超えた暴力的なエロさを持っていることだけは否定のしようがない。

三日目は、全身がだるくて頭が痛かった。それで眠ることもままならず、本でも読んで気を紛らわすしかない。そこで選んだのは「性と欲望の中国」である。風俗からダッチワイフ、結婚事情まで、現代中国14億人の性事情が網羅されている。

注目すべきは一人っ子政策で歪んだ男女比率である。自然状態での男女比率は105:100だが、現在の中国ではおよそ118:100となっており、極端な男女比の偏りがある。一生結婚できない男性は3000万人以上とも言われ、彼らの欲望が向かう先は、根源的な男の哀しみ、その吹き溜まりの感がある。

たとえばダッチワイフ。日本から技術者を呼び寄せ、より安価で高品質なものを開発しているという。日本ではあくまでも「ジョーク商品」として扱われることが多いが、彼らは本気である。

『鉱物油を主原料とするTPEは独特のケミカルな匂いがあり、この点も課題だ(ラブドールは「実用」の際に乳房や臀部に口をつけるオーナーが少なくないからだ)。さらに、シリコーン製以上に肌へのオイルの染み出しが起こりやすく、胸部が大きなモデルはしばしば乳房の間に「汗」をかく。』――あぶれた男たちのその使用図を想像すると、哀れみを禁じえないのは私だけではないはずだ。

また、ある企業の商品ラインナップはこうだ。『シリコーン製ドールの主力は、アイドル系やエルフなどからなる幻想的な「ユートピア」シリーズと、美女モデル系や熟女系、ビヨンセのような褐色の肌の外国人モデル系などからなる大人っぽい「浮世絵」シリーズの2パターンに分かれている』

思わず噴き出して、ひどく咳き込む。痰がからんで、ティッシュに吐く。丸めて捨てようとして、しかしなんとなく広げて見たそれは、どうしようもなく若かったいつかを思い出させた。汚れちまった悲しみに――中原中也の詠んだそれは、たぶん、このあたりにへばりついている。

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