アメリカで1200ドルの給付金をもらった話

カリフォルニア全土に外出自粛令が発布されて一月あまり。先の見えない日々に鬱々とした気分は募るばかりだった。

そんなある日、突然届いたのがこの給付金の小切手である。

コロナウイルスの影響によるアメリカでの給付金、Coronavirus Covid-19 Economic Impact Payment in the US

同僚らから現金給付の噂は聞いていた。しかしそれはアメリカ国民に対してのみで、永住権保持者すら対象外、つまり私のような期限付き労働ビザの分際には縁のない話ですっかり忘れてしまっていた。 

文字通り金が空から降ってきたようで、私はにわかには信じられなかった。わななきながら先の小切手を大家に見せた。すると彼はさも当然のように、納税者は全員もらえるぞ。いらないならワシにくれるか? ガハハと笑うのであった。

私はほとんど泣きそうになって、思わず「What a great country America!」と叫んでしまった。まさか私の人生で「偉大な国アメリカ」なんてセリフを真顔で言う日が来るとは思わなかった。

自室に戻って私は給付要件を調べた。『現金1,200ドルの給付対象となるのは、年収75,000ドル以下の納税者。』で『給付現金は非課税』とのことであった。
参照: アメリカ新型コロナ緊急経済対策|1,200ドルの現金給付の条件と詳細&賢い使い方10通り

自分も対象者であることは理解した。だが、そわそわとして落ち着かなかった。いや、わくわくと言った方が正しいのかもしれない。とにかくは、異様にテンションが上がっていた。

正直、ここ最近は気分の落ち込みがひどく、参っているようなところがあったから、余計に感じるものがあったのかもしれない。

実際問題、私は貯金らしい貯金と言えばせいぜい12、3万円しかない。38歳独身でそれは信じられないかもしれないが、一時は借金が150万近くあったことを思えば、完済した今は余裕すら感じているからおめでたい。

幸いWeb関係でメシを食っているので、コロナ禍の影響と言えば在宅勤務に切り替わったくらいのものだ。つまり、経済的な影響は皆無と言っていい。食うには困ってない。欲しいものもない。強いて言えば名誉が欲しいが、金で買えるものではない。

それでも、やはり金をもらえば嬉しい。単純に元気が出る。マルクスを引き合いに出すまでもなく、金銭とは価値が保存されたものだ。鳥が餌を溜め込んでこそ巣ごもりできるように、蓄えは心に余裕をもたらす。

そう、これは単なる金ではない。なぜなら、私には当面の使い道がない。というか、おまえの貯金額では使う方がおかしいと思われようが、その通り、貯め込むも何も、マトモな大人として持っておくべき最低限の金もないから、余裕もない。

言うまでもなく余裕がないのは苦しいことだ。余裕がない者と余裕がない者が出会えばどうでもいいことで揉める。穏やかならぬ空気は伝染する。また揉める。それが今の状況だ。

私は今日まで生きてきて、いろいろなところから、さまざまな方法で金を得てきたが、金をもらってこのような気持ちになったことはいまだかつてない。

政治家や識者の一部が言うように、確かにその大半は貯め込まれるだけかもしれない。しかし、心に絶対的な余裕が生まれることは、まあ、月並みな言葉で言えばプライスレスではなかろうかと、私は思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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