この世でもっとも汚いところ

  2020/01/30

「汚れ」と「穢れ」という言葉がある。

両方とも「けがれ」と読むが、しかしそれは似て非なるものである。

先日この穢れについて、Twitterで賢い坊主の話を読んだ。コップにおしっこをします。コップを綺麗に洗います。そのコップで水を飲みます。飲めますか? この時に感じる抵抗感が穢れの本質です。

わかりやす過ぎてなるほどとしか言いようがない。そのコップを顕微鏡で見たって、もはや尿なるものはすっかり洗い流されて、きっと発見できない。バイキンだとかウイルスだとかアレルギーだとか、そんな目に見えない物質さえも普通に論じるこの科学万能の時代に、しかし、確かにある、消しがたい抵抗感。

おそらく、日本中の人に聞いてみても、平気でそのコップで水が飲めるという人は限りなく少数派だろうと思われる。この穢れ感は、人間として正しい感情だろうか。正義だろうか。まあ、正義か悪かはともかく、穢れという感情、感覚は誰でも持っていて決して特殊なものではない、ということだけは揺るぎない事実である。

部落問題はこの穢れがもっとも顕著にあらわれた事例だろう。屠殺に従事したり、皮革加工する人たちは、穢れている。だから、村はずれの一隅に集めて、物理的に遠ざけようとする。

自分たちは肉も食うし皮革製品を使うにも関わらず、実際に手足を使っている人たちにだけその穢れを押し付け、自分たちは清浄だとする。むしろ、彼らは穢れた存在だと差別することによって、はじめて自分たちの清浄さを確認する。確認できる。

別に部落問題をどうこう言いたいわけではないが、もしも部落問題を真剣に話し合い、撲滅を目指すときは、まずはみんなでコップに放尿し、洗って、そのコップで喉を潤しながらディスカッションすればいいのではないか。

いや、こんな話をするつもりではなかった。単にさっき排尿をしに行って、ズボンのチャックを上げるとき、あれ、このチャックってこの世でもっとも汚くね?と思っただけである。

よっぽど潔癖な人でなければ、このチャックを手を洗ってから上げる人はいないだろう。仮にそんな潔癖な人は、公衆トイレなどで排尿後は、すべからく社会の窓全開で洗面台まで歩かねばならない。大の大人が、両手をどこにやっていいものかわからず、生まれて始めて「動くな!手を上げろ!」と言われてわなわなと手を上げるその中途のようなぎこちない体勢で、よたよたとチャック全開で歩く。想像するだに噴飯ものである。

それはともかく、かわいそうなのはチャックの金具だと思う。世の中にチャック、いわゆるファスナーは、あらゆる製品に使われているが、これほどに穢れる運命にある金具もなかなかないのではないか。ヴィトンのバッグのファスナーが武士階級だとしたら、社会の窓のファスナーは穢多・非人に違いないだろう。

これはぜひとも供養せねばなるまい。針供養などをしている場合ではない。わたしとしては可及的速やかに、全国から社会の窓のチャックを集め、皆で厳粛に弔うことを切に求めたい。って、こういう終わり方をさせるつもりではなくて、何か言いたいことが大きくずれてて、もっとこう、なんかあったんだけど、まあいいや。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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