誰のためでもないコロナの水際対策
2022年2月25日、私は無事オランダから日本への一時帰国を果たした。
果たしたなんていうと大袈裟なようだが、大変だったのである。その時点での日本政府のレギュレーションでは、全渡航者はフライト出発前の72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明を提出しなければならなかった。
しかし、その二週間ほど前にシェアメイトがコロナの陽性になったのだ。彼女は病院等の施設ではなく自宅隔離となった。ひとつ屋根の下ですべてを別にできるはずもない。トイレや浴室は共有する他なかった。
だから、フライトの2日前にPCR検査を受けに行き、陰性が出た時にはほとんど奇跡ではないかとさえ思われた。
そんなこんなで、成田国際空港に到着した。17時半ごろであった。そこから煩雑な書類の記入、健康管理を行うためのアプリ設定、唾液によるPCR検査、そして隔離先の手配などがあり、最終的に都内のホテルに入室できたのは深夜の11時を回っていた。
この一連の流れを、岸田首相は繰り返し「水際対策」と呼んでいるが、この言葉の意味を確認しておきたい。
伝染病や有害生物などの上陸を阻止するために、空港や港などで行われる、検疫や検査などの対策を意味する語。非軍事的な意味での「水際作戦」とほぼ同じ意味で用いられる。
引用元: 水際対策 - weblio辞書
なるほど、コロナを事前に阻止しようというのである。しかし、どんなに世事に疎い方でもご存じのように、すでに上陸している。なんなら蔓延している。現にいま、東京をはじめ複数の都道府県で「まん延防止等重点措置」が発出されている。
ここで改めて、現時点で私を含め海外からの全渡航者が受ける「水際対策」を確認いただきたい。
- フライト出発前の72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明
- 日本国内の空港到着後の唾液によるPCR検査
- 到着日翌日から起算して6日間の隔離施設での待機
- 隔離期間3日後に再度唾液によるPCR検査
これで何がしかの効果があるのならば何も言うことはない。しかし、考えてもみてほしい。1の「フライト出発前の72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明」の時点で、マスクのずれを気にしながらそこらを歩いているおばちゃんよりもよっぽど安全ではないだろうか。
そして「日本国内の空港到着後の唾液によるPCR検査」までやれば、完璧と言っていい。
冷静に考えればバカでもわかる。ここ2、3日の間に、二度もPCR検査を受けて陰性を叩き出した日本国民がいったいどれだけいるというのだろうか。1%もいないはずだ。
3や4に至っては、もはや祈祷かまじないのレベルである。しかも、その6日の隔離期間の終了後に、さらにプラス1日の自己隔離期間が設けられており、その間は公共交通機関には乗ってはいけないというのだから、いっそ念仏でも唱えたくなる。
しかし決まりは決まりなので仕方がないと諦めていたところ、私の隔離期間の後半に当たる2022年3月1日より、基本的に隔離期間が廃止されることになった。
もちろん、ある日時を決めて、新たなレギュレーションが施行されるのは当然のことだ。しかし、それにともない、珍妙なことが起こった。
私の当初予定の隔離期間である3月3日まで、隔離施設にそのまま居てもいいが、新レギュレーションが施行される3月1日に、隔離施設を出ることもできる。しかし3月3日まで居る場合は、やっぱり引き続き外には出れず隔離されたままだというのである。
状況が複雑過ぎて、理解するのに一晩かかった。そしてわかった。すべては科学などに基づいて行われていることではなく、単なるパフォーマンスなのだということを。
パフォーマンスには鑑賞者が必要だ。それは誰か。「外国人お断り」や「県外者お断り」といった張り紙を掲げてなんの疑問もない、無知蒙昧の人々である。
その種の人は、一時帰国者のことなど自分には関係ないと、あるいはロシアのウクライナ侵攻だって全然関係ないと笑うだろう。
しかし、この世の一切はしばしば反転する不確かなものであることは歴史が証明している。いつかあなたがお断りされる立場になった時に慌てても遅いのだ。
おかしいものはおかしい。だめなものはだめだ。それは世界のどこでも、どこにいても同じなのだ。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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