みんなの、そして、それぞれの夜

最終更新: 2015/07/03

帰って早く寝ようと思い、立ち食いそば(なぜかうどんが出てきたけど)を食べて帰ったのに、パネルに水張りをしていたらどうにも喉の奥から酒を飲みたいという魔の手が伸びてきて、酒を、白ワインを飲み始めて今にいたる。

その魔の手は、煙草を欲するときの気持ち、いや、感覚に、とてもよく似ている。

数年前、確実に吸わなくなったのは三年前くらいだろうか。煙草をやめてからたったの三年かと、いまさらながらに思う。だって、大学の二年くらいから吸い始めたので喫煙歴は七年。きっちり二十歳だった、気がする。そうして七年もの間、さまざまな場面でタバコをくわえライターをこすり火をつけ煙を吸い込み吐き出していたのであるから、そう簡単に忘れられるはずもないのかもしれない。

それはともかく、ひさしぶりに、ひとり自宅で飲みながら、いろんなことに思いをはせている。

いままでのこと、これからのこと。

ぼくの性癖であるカウントダウン、それを完全に正しくカウントしてくれるAndroidのアプリには、広島に帰るまでの日数があと98日だと、表示されている。いよいよ100日を切っている。

いまの生活を思い、広島に帰ってからの生活を思う。実際、それが正しいのか、正しくないのかはわからない。いや、単に、それでぼくが満足するのか、できるのか、ぼくの人生の日々が今よりも楽しいものになるのか、愉快な日々が待っているのかどうかは、わからない。わからないが、しかし、そうしたいからそうするのだとは思う。自分に嘘をついているとも思えないし、そもそも今現在のこの生活を続けていきたいとも思えない。

むしろ、今現在、この日々にはうんざりしていて、飽き飽きしている。なんのために、生きているのか、それこそわからない。

自分のこの肉体、若さ、体力。人に笑いかけたり、優しくしたり、ただいまと言ったり、おかえりと言ったり。そういう人間としての生活そのものを、誰かの役に立つ可能性を——もちろんそんな優しい人間ではないがそういう気持ちも漠然とあるのだ——なぜに日々、繰り返し、無人の部屋に戻り、やるせなく無駄に捨ててしまわねばならないのかと、思う。

そう、思う。

明日のお弁当を作っていると、ふと、樋口のぼくという人間についての解説を思い出した。

はじめに牛乳をあっためた時にできる膜みたいなむちゃくちゃうすっぺらい優しい層があって、その次にむちゃくちゃ厚くて深い冷たい層があって、だけどそれを我慢してなんとか乗り越えると、ほんとうに優しい層にたどり着く、と。

まあ、おっしゃる通りだと思う。初対面の人当たりだけは一応よい。そしてその後の人付き合いは完全に雑であり適当である。そのため、たいていの人、というかほぼすべての人はそこで脱落し、もしくはぼくが切り捨てて、まもなく親交は途絶える。なので、必然的にぼくの友達はとんでもなく少ない。

そんな自分を、だめだなあとも、悪いなあとも思わない。どうでもいい。去るものは去れと、心底思う。泣きもわめきもしない。むしろ笑う。一向に構わない。

ただ、そうばっさりと切り捨てられるのは、決してぼくの精神が強靭だからというわけではないような気がする。

たぶん、ぼくの最深部に辿り着いた数少ない人の、ありえないほどの理解と、もったいないくらいの寛容と、嘘偽りではないと信じられる賛辞があるからこそ、ぼくは自信を持ってこうやって傍若無人に振舞えているのかもしれない、なんてことを思う。

だって、たとえば、全世界の人に否定されたとして、ただのひとりもぼくの理解者が居ない世界で生きているとしたら、ぼくは自分に自信を持てる自信がない。全然ない。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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