現代美術という狂宴

最終更新: 2017/08/22

昨日は谷中のHAGISOに『益永梢子 個展「Abstract Butter at HAGISO」』、それから、高円寺のナオナカムラに『天才ハイスクール!!!!展覧会「Genbutsu Over Dose」』を見に行った。

両者の展示内容はあまりにもかけ離れていて、比較とかそういう話はとてもできない。とりあえず、今も頭の中に引っかき傷のような痛痒を残しているのは、「Genbutsu Over Dose」で見た、SORAという作家の「ひのあたらない場所」という作品である。

これは18禁の作品で、作家自身が巨大な自作の万華鏡(長さ1m、直径30cmくらい)にまたがって、自分の陰部を見せる(覗かせる)という作品である。

正直、見世物小屋か、秘宝館にでもありそうな感じである。いや、そもそも、ぼくはこれを確かに美術作品です!現代美術です!と胸を張って言い切れる自信がない。まあ、別にぼくが言う必要なんてないのだが。

とにかくは、鷹揚に万華鏡にまたがっている作家にうながされるまま、ぼくは巨大な万華鏡に穿たれている小さな穴をのぞいた。陰毛とおぼしき黒い部分と陰唇と思しき肌色が、細かく断片化しつつ幾何学模様を生み出していた。美しいというほどでもなく、まあ、想像通りという印象の模様であった。

「見えた?」

作家に不意にそう聞かれ、ぼくは「なるほど」と答えた。そして照れ笑いを口中に含みつつ足早にその場を立ち去った。

なんとも言えない居心地の悪さ。それにしても、何が「なるほど」だ!ぼくは先の自分の応答を恥じた。なるほどなんて、ただのエロ親父じゃないかと。まがりなりにも美術家なら、もうちょっと気の利いた答えができたっていいのに。

たとえば、「ありがとうございました」。などと考えて、さらに卑猥な応答だということに気づく。金銭の授受が発生しそうなやり取りである。ならば素直に「はい、見えました」って、なんなんだこれは、どう答えてもなんだか自身の矮小さが露呈されるような気がしてしまう。あるいは、この確かな”動揺”こそが、この作品の狙いなのかもしれない、なんて。

なんというか、この展示は全体的に、ぼくの美術に対する理解を超えていた。なにがなんだかわからない。それが偽らざる本音である。

たとえば、友人が初めてリストカットをしたときに使った包帯が記念品として展示してあったり、殺処分をまぬがれた犬猫の毛を幸運のお守りとして20万くらいで売っていたりする。あるいは、うずらの有精卵が孵卵器にかけられ実際に生まれ出てきていたり、樹海で拾ってきたというロープでなわとびをしている映像作品など。

まあ、わかるといえばわかるのだが、しかし。

もうひとつ印象に残った作品としては、タタラタラさんの「果たし状」という映像作品。ペンタゴンに決闘を申し込むという映像作品である。

女性の作家自身が、なぎなたでもするような古風な和装に鉢巻きをして、大仰に墨をすって毛筆で「ペンタゴン殿」と書き出す。そして最後は郵便ポストに入れて、実際に投函して終わりである。作品説明によると、ペンタゴンに対する憎悪が日に日に増しているという。

これはぼくの勝手な解釈としては、もはや”することがなくなった”、あるいは”行き詰まっている”美術界において、残されていることといえば、無理やりに対象(仮想敵)を捏造し、勝手に攻撃することぐらいしかないという皮肉なのではないか。それは、この作品が「アメリカ」ではなく、その一機関にすぎない「ペンタゴン」を対象に選んでいるというところにあらわれているような気がする。ウルトラマンに出てくる「カネゴン」という怪獣などと語感が似ているのは、決して偶然ではないと思うのだが、どうだろうか。

そしてこの展示で唯一の”ふつう”と言ってもよい平面作品が、こともあろうに屋根のない雨ざらしの屋上に展示されているというのも、何か大きな意図を感じた(しかも木炭紙に木炭という)。もはやまっとうな平面など埒外だとでも言わんばかりである。もちろん、ビニールでパッケージングしてあり、少々の雨風はしのげる状態にはなっていたが、それにしても、という感じである。

それらしい解釈を試みてはみたが、しかし、それにしても、あれらはいったいなんなのだろう。そもそも、美術とは、現代アートとは、なんなんだろう。

いまも 、軽いめまい的な混乱が尾を引いている。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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