理由はいらない

最終更新: 2017/08/22

ドアにものがはさまる。急病人が出る。車両点検をする。踏切内に人が立ち入る。
今週は、火水木と三日連続で中央線が遅れた。
よく考えたら理由なんてどうだっていいと思うのだが、どうして、毎回ちゃんと理由を教えてくれる。
三鷹駅で救護活動を行った影響で、立川駅でモノ挟みがあって、云々。すべての乗客にとって、問題は電車が遅れて時刻通りに到着しないというただ一点なのであって、それがどんな理由だろうが知ったことではないと思うのだが、しかし鉄道会社は、律儀にも毎回理由を説明して抜かりない。
それも非常に細かい。車内で急病人が発生いたしました。ただいま救護活動を行っております。救護活動が終了いたしました。
あー、そう。とにかく遅れるのはわかったからさっさと片をつけてくれという感じなのだが、この説明によって各々の苛立ちのいくらかが緩和されているところもあるのだろう。
ぼくは常々、あらゆることにおいて結果がすべてだと思うのだが、世の中の人々は結果に至る過程、つまり電車遅延の場合でいう理由こそが重要なのかもしれない。
車掌が眠気に耐えられないため、吉祥寺駅で20分ほど仮眠をさせていただきます。ただいま仮眠中です。仮眠が終了いたしました。電車が動きます。ご注意ください。
ぼくとしては、以上のような場合と人身事故等とではほとんど同じことだと思う。
ぼくに影響し、関係があるのは電車が遅れるというその事実だけである。理由の如何によってぼくの時間、もっと言えばぼくの人生が左右されるわけではない。決してないのだ。
しかしまあ、この世の中には建前というものがあることも重々承知してはいる。急病人というのが実は痴漢だったりという話もあるが、とにかくはなんでもいいからもっともらしい理由をつけて、みなさまにご納得いただきたい。そのための説明なのであろう。
かくいう私も会社を休む時には風邪だとか熱だとかと適当な理由をつけておくし、次の日にマスクをつけて出社する小細工も忘れない。本当はまったく元気で懸命に絵を描いていたりするのだが、それこそ建前である。
ぼくにとってもっとも大事なのは絵を描くことで、会社の仕事はただ金のために我慢してやってるだけでまじでくだらないと思うんで今日はお休みしますんでよろしく。
なんて言えたらどれだけいいだろうとは思うが、曲がりなりにも社会人であるぼくは、しばしば嘘をついて生きていかねばならないのである。
ああ、かくもこの世は生きにくい。みんなさっさと鬼籍に入ればよく候。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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