ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

アメリカ版ストロングゼロ生活

  2020/02/01

先日公開した「異次元飲酒体験!アメリカ版ストロングゼロ「Four Loko(フォーロコ)」について、はてなブックマークで以下のようなコメントをいただいた。

『ワイン一本飲んでも平気の筆者が、ワイン1本分くらいの度数と量の米式ストゼロを飲んだけど平気だったってだけの内容に、どれだけ前置きするのか。タイトル詐欺』

正直、心外である。そこまで言うなら飲んでやろうじゃないかということで書き下ろしたのが本記事である。

さて、今回も例によってアメリカの低所得層の味方「Food 4 Less」を訪れたのは月曜日の夜であった。

アメリカのロサンゼルスのスーパーマーケットFood 4 Lessの外観

私には哲学がある。ストロングゼロを愛飲する者はすべて疲れていなければならない。仕事に、生活に、あるいは人生そのものに。くわえて貧しくなければならない。だから、安く早く酔っ払い、何もかも忘れるのである。

とはいえ、アル中でもなければおつまみが欲しい。日本ならストロングゼロにふさわしいのは半額シールの惣菜あたりであろう。

アメリカのスーパーのチキン一羽の販売風景

アメリカではチキンの丸焼きである。お手頃価格の6.99ドル。クリスマスでなくても年中売っている。いつもは山と並んでいるが、今日に限ってほとんど売れてしまっていた。

アメリカのスーパーのサラダの販売風景

それからサラダ。貧乏人こそ身体が資本。持っているものはこの身ひとつ、貯金も信用もない。ついでに言えば未来もないが、せめてもの慰めである。高校球児の弁当箱が軽く3つは入るサイズで2.5ドルである。

アメリカのスーパーのポテトチップスの販売風景

ポテトチップスも買う。レギュラーサイズ8oz(226.8g)で2.5ドル。健康志向のサラダが台無しだが、たとえボーナスをもらってもプラスマイナスゼロにしてしまうのがストロングゼロ愛飲者の哀しい性である。もちろん、ボーナスがもらえるような人はもっとマトモなものを飲む。

アメリカのスーパーの酒類、アルコールの販売風景

そしてメインのアメリカ版ストロングゼロを3種類ほど見つくろう。

アメリカのスーパーで使われている巨大なカート

わざわざカートを使っているのではない。アメリカでは普通カートを使う。日本の主婦のようにカゴをぶら下げて買い物をしている人は皆無である。また、いかにもスカスカのようだが、どの商品も十分にでかい。カートのサイズが異常なのだ。しかし、たいていアメリカ人はこのカートを満杯にして涼しい顔をしている。道理で戦争に負けるわけである。

アメリカのスーパーのレジ、お会計の風景

レジでは、カート内の商品を一つずつ自分でベルトコンベアに載せていく。と言っても、工場のように常時流れているのではなく、レジの人の裁量で動く。アメリカのスーパーは基本この方式なのだが、カゴごと置く日本の方が効率的ではないかと思う。

アメリカのスーパーでの買い物のレシート

お会計は21.61ドル。日本円で2357円ほど。高いという声が聞こえてきそうだが、アメリカが高いのではなく日本が安すぎるのである。だからこそ、割安感から訪日客が増えているのだ。

日本人の私でも思う。日本のモノは恐ろしく安いのに高品質。サービスも発狂するほど安いのにお客様は神様のごとき扱い。それを可能にしているのは、言うまでもなく大量の低賃金労働者である。どう楽観的に考えても、失われた30年は、40年になり、50年になり、日本は滅ぶ。

どうも日本の未来を考えると陰鬱になってしまう。忘れよう。お先真っ暗だからこそ酒を呑むのだ。まずはキリンビールで乾杯といこう。

酒、チキン、ポテトチップス、ビール、サラダの撮影風景

チキンにかぶりつく。サラダを頬張る。そしてビールで流し込む。沈んだ心持ちの時こそ酒がうまい。酒は憂いの玉箒(たまははき)とはよく言ったものである。

ライム風味のアメリカの酎ハイの缶と、酎ハイを注いだグラスの画像

さて、1本目のアメリカ版ストロングゼロ「LIME A RITA」を開ける。容量は25 fl oz(約740ml)、アルコール度数は8%と、ストロングゼロの9%には及ばない。アメリカらしくもなくマトモな色である。

ライム風味のアメリカの酎ハイ「LIME A RITA」の缶の画像

味は「SPARKLING MARGARITA」と書いてある通り、そんな感じである。しかし妙に甘い。手につくとベタつくから、相当な糖分であろう。

話は変わるが、しばしばストロングゼロ系のCMは明るいイメージで作られる。だが、本来ストロングゼロを愛飲する者は孤独である。

ライム風味のアメリカ酎ハイ、ビール、フォークとナイフが突き刺さったチキン、サラダ、ポテトチップスの画像

考えてもみてほしい。友人にしろ恋人にしろ、せっかく一緒にいて、安く早く酔っ払おうとする人なんかいるだろうか。仮にいたとしても、そんな人と付き合いたいと思う人はいない。結果、友人も恋人もできないから、一人で飲むしかない。

グレープ風味のアメリカの酎ハイの缶と、酎ハイを注いだグラスの画像

2本目のアメリカ版ストロングゼロは「HARDER PURPLE GRAPE」。フォーロコに対抗するような若者向けのパッケージだが、容量は16 fl oz(約470ml)とやや小ぶり。アルコール度数も8%と控えめである。色はグレープの紫というより、限りなく黒に近い。

グレープ風味のアメリカの酎ハイ「HARDER PURPLE GRAPE」の缶の画像

お味の方は完全にぶどうガムというのはともかく、アメリカ人は舌ごと母胎に忘れてきたんじゃないかというくらい甘い。

二口、三口と続けて飲んでみるが、糖尿への片道切符としか思えない。とても飲み切れる気がしない。当然チキンにも合わない。何よりチキンまるごと一羽は相当でかい。必死で飲み食いしていると、記事を書くためとはいえ、四十近くにもなって何をやっているんだろうかと我に返らざるを得ない。

ジンとレモンを混ぜたアメリカの酎ハイ、フォークとナイフが突き刺さったチキン、サラダ、ポテトチップスの画像

それでもいくらか酔ってきて、気分が上向く。が、あまりにも甘い。これ以上は無理だ。レモンを絞り、ジンを混ぜる。いくらか辛口になって、マシになる。

申し訳ない。冒頭のコメントの通り、またしても看板に偽りありとなってしまった。だけど、信じてほしい。私の精神は確かにストロングゼロなのだ。つまり、ストロングゼロを求めてしまう私を含めた我々は、とても寂しい。それにみじめだ。

べつに誰のせいにする気もない。だからこそ、酒を飲むなんていう内向きな行為に走る。本当はわかっている。酒を飲むのは愚かさの証だと。

アメリカのロサンゼルスのフィリピン人一家の間借り、シェアハウスの画像

町田康の『しらふで生きる』に、こんなくだりがある。『飲むために働いている、みたいになってないか。飲む以外のことの価値が君の中でとても低くなっている。それこそが苦しみなんだけどな。まあいいや、好きにしろや。』

もちろん、好きにする。だけど、その通りだ。いま、私の人生は、とにもかくにも飲むために回っている。いつからだろう、朝も昼も、酒を飲める夜を待つようになったのは。

大学の卒業旅行の時にはすでにそうだった。友人らと別府に行き、地獄巡りをして、だけど私は、夜を待っていた。とにかく酒が飲みたかった。いや、楽しくなりたかった。笑いたかった。

酒を飲むと楽しかった。酒を飲めば笑っていた。だから酒が好きになった。しかしいつしか、友人が消え、笑いが消え、酒だけが残った。

誰しも酒には思い出がある。あなたが生まれて始めて酒を飲んだ記念すべきその日は、きっと一人ぼっちではなかったはずだ。たぶん、緊張と、興奮と、かすかな恐れと、誇らしさ、そして誰かが一緒にいて、幸福だった。

その経験が、我々にとっての酒のなんたるかを決定づけた。だって、どう控えめに考えても、人間の感覚として純粋に言えば、酒よりも麦茶の方がうまい。

にも関わらず、一度酒を愛してしまった我々は、いまや見る影もない旦那や嫁を捨てられないように、ずっと酒に期待しているのだ。過去の喜びを取り戻すことを、今の虚しさをやり過ごすことを。だからどうして、うまいと言ってしまう。思ってしまう。錯覚してしまう。

だが、本当の本当を言えば、酒を飲んでも楽しくなくなった。笑うこともなくなった。真顔で飲んでいる。いっそ虚しい。虚しいけれど、酒を飲む。それ以外にこのやるせなさをどうにかする方法を知らない。

はっきり言う。私は寂しい。とてもとか、すごくとか、死ぬほどとか、そこにつけたい形容詞は山ほどある。でも、つけない。ストロングゼロを求めてやまない人だけが、この寂しさを知っている。

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