アメリカの車

いわゆる「アメ車」について語るのではない。アメリカにおける車の話である。

しかし現代、車なんて輸出したり輸入されたり、世界中どこでも同じだろうと思う向きもあろうが、違う。断じて違う。

北海道どころではない広大さであるアメリカにおいて、車は洗濯機なみの日用品である。なので、その使い方には気取りがない。

気取りがないどころか、何も考えていない。アメリカの車道を三分も眺めていればわかる。事故車と呼ぶべき車がふつうに――つまり何も考えずに――走っている。

車全体がさびているの、ライトが割れているの、横っ面が大きくへこんでいるの、バンパーがはずれているの。それをガムテープや荷造りヒモなんかで適当に直して乗っている。ある車など重度のへこみに絆創膏のステッカーを貼っていたから笑った。

見上げたDIY精神と言えなくもないが、事故車がそのまま走っているというのは、「私は事故しました」と言って回っているのと同じである。人間で言えば「私は痴漢しました」とか「盗みを働きました」という看板を首からぶら下げているのと変わらない。

少なくとも日本人ならそう思う。だからルース・ベネディクトは日本は恥の文化であると「気がついた」のかもしれない。確かに、事故車で走ることは罪の問題ではなく恥の問題であろう。

とまれ、車の扱いがそういう感じなので、運転においてはいわずもがなである。

恥の意識の有無かどうか知れないが、彼らの運転は概して子供のように無邪気である。あちらに行きたい、こちらに行きたいという動きが実にストレートなのだ。

たとえば駐車場から車道に出るとき、歩道の手前で一時停止するのは常識どころか義務であろうが、アメリカは違う。一気に出る。さらにはその状態で、車が来る方向だけを見て(1分でも2分でも逆方向は一切見ない)車の波が途切れるのを待っているので、歩道を逆方向から来ようものなら確実に死角にされて轢き殺されそうになる。

最初こそ憤っていたが、そのうち、これは「アメリカンウェイ」というべきものなのではないかと考えるようになった。左右を見るという習慣がないのではない。それはもっと深いレベルで論じられるべきもので、そう、「脇目も振らず我が道を突き進む」という、アメリカ的哲学の表れなのかもしれない。いやほんと、まじめな話。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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