ほぼエッセイ、ときどき現代の美術とアート。

あいちトリエンナーレのファンファーレ

とある方から、あいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」の中止の件について意見を聞きたいと言われたので、書いてみることにした。

なお、この事件の概要は以下の通りである。

(あいちトリエンナーレの)プログラムの一部として企画展「表現の不自由展・その後」が2019年8月1日より開催された。2015年に民間のギャラリーで開催された「表現の不自由展」では、「慰安婦」問題・天皇と戦争・植民地支配・憲法9条・政権批判などのテーマを持ち、公共の文化施設で展示不許可になった作品を展示していたが、本企画展では、それらの作品の「その後」に加え、2015年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を展示していた。

しかし、8月2日には事務局に電話などで批判が集まった。主催者である愛知県の発表によると、中には電話で県職員を恫喝・脅迫する者、職員の名前を聞き出してネットで誹謗中傷する者や「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」と京都アニメーション放火事件を匂わせるFAXを送付する者もいたという。 (中略) そうした中、あいちトリエンナーレ2019実行委員会は8月3日を最後に当該展示の中止を決定した。これに対し、当該企画展の実行委員会のメンバーが「戦後最大の検閲事件となる」として、抗議文を発表した。


※括弧内筆者
引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/あいちトリエンナーレ#企画展「表現の不自由展・その後」の中止

確かに表現者なら関心があってしかるべき問題だろうとは思う。しかし正直、あまり興味がわかない。

椹木野衣が日本の現代美術は歴史がなく、忘却と悪しき反復を繰り返す「悪い場所」だと論じてから二十年あまり。日本が芸術後進国だというのは今に始まった話ではない。だから、まあそういうこともあるだろうと。

もちろん、これは「戦後最大の検閲」と呼ぶべき政治の問題で、ことはアートの範疇を超えている。だとすれば、年金や国防なんかの問題と同じ次元で、「みんなで考えるべき問題」なのだと思う。

まず、大前提として私は、アートはエンターテイメントのひとつだと思っている。ここでいうエンターテイメントとは、特殊な表現ではなく一般的な訳としてある「娯楽」と考えてもらって構わない。だから、それがにわかに現実世界に侵食してくるのは非常に違和感がある。

たとえば、ハリーポッターなどの映画は架空の世界だからこそ楽しめるのであって、あれが現実の問題として扱われるとしたら興ざめであろう。あの手のファンタジー映画の役者の不祥事がことに印象が悪いのは、架空の世界が現実に侵されてしまうからである。エンターテイメントとは、こちら(現実世界)とあちら(仮想世界)の線引きのもとに成り立つものなのだ。

私はアートをエンターテイメントとして愛している。いくらクリス・バーデンが自分の腕を銃で打たせたり車に五寸釘で磔にされたとしても、アイ・ウェイウェイが難民の救命胴衣を使って作品を作ったとしても、私はそれをあくまでもエンターテイメントと呼びたい。

あなたのような「にわかアーティスト」は覚悟がないから、アートをエンターテイメントなどと生ぬるいことが言えるのだと言う人もあろう。しかし、アーティストが命をかけようが、あるいは実際に死んでしまおうが、それはあくまでエンターテイメントなのだ。命をかけて本気でやればエンターテイメントでなくなるならば、ゲームも映画もエンターテイメントではない。むしろそちらの方が技術的にはアートよりよほど高度で、とてもじゃないが「にわか」で作れるものではない。

もしアートをエンターテイメント呼ばわりされることに我慢がならないなら、いっそアクティビストにでもなればいい。私とて、政治をエンターテイメントとは呼ばない。

だから私は、この件が現実世界に侵食してきて、かつ政治問題とイコールとして扱われるに至って、完全に興味を失った。国会中継に興味がないのと同じである。

しかし、ここにきて賛同アーティストを募って再度展覧会をやろうとしているのは、おもしろいと思う。なぜならいったんアートから政治問題になってしまったものが、アートに還元されるように見えるから。つまり、再びエンターテイメントとして見れるのだ。

そもそもの話、くだんの展覧会での作品を糾弾する人々に言いたい。エンターテイメントに本気で怒ってどうする。ふだんはアートなんか見向きもしないくせに。そういう鑑賞態度がアートをだめにする。あなたが怒るべき現実問題は、もっと他に、山ほどある。そっちの方に電話でもかけてみてはどうか。

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