無知を演じることはできない

  2017/08/22

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不意にラジオからダイドの曲が流れてきてたちまち懐かしくなる。
エミネムとコラボした有名な曲じゃなくてアルバムに収録されていた、いわばしがない一曲。しがないのでタイトルは覚えていない。
でもメロディーはしっかりと僕の頭に焼き付いていて、その曲が1分も流れないうちに僕は大学生になり、その時分住んでいたアマノフラット香住ヶ丘の301号室の部屋でひとり寝転んでいた。
だらだらと永遠に続くように思われた時間。夜は長く、昼は無いに等しかった。
夢とか希望とかいうやつはあるようでないようで、瞬間瞬間にある移ろいやすい気だるさやハイな気分、そんな“感覚”がぼくの日々そのものだった。
そんな場面に、ダイドの曲は分かちがたくからみついている。
ダイドのアルバムは大学の売店で買ったものだった。タワレコよろしくインポートと書かれており確か1500円くらいだった。
だいたいどのCDもそうだが、買って2、3日くらいはオールリピートにして一日中聞きまくる。
聞くというかとにかくはBGMとしてずっとある。
ガービッジのアルバムを聞くと、炊飯器でラーメンを作りウインナーをゆでている場面を思い出す(大学1年の時は食事つきの下宿だったんだけど、日曜日はご飯がなく、自炊っぽいことをしたかった僕は唯一の調理器具である炊飯器で料理していた)。
それで、香りや質感まで、昨日のようにまざまざと思い出す。
音楽って、なんかよくわからないけれどやたらめったらその時々の情景と結びつく。
ナンバーガールは宮島近くを走る車の中。
グレイは高校の夏休みのクーラーの効いた実家のリビング。
布袋は中学生。毎朝ドライヤーを20分はかける友達に売ってもらった。
そう考えると、無音の場を適当に埋める一枚のCDも、意外に神経を使うべきなのかもしれない。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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