東京一極集中と地方の衰退

  2017/08/22

私は、一地方都市である広島県の広島市に生まれ育った者である。

ところで、先日以下のようなニュースがあった。まずはご一読いただきたい。

国勢調査 初の総人口減 東京圏集中ますます…
 総務省が発表した国勢調査によりますと、日本の総人口は1億2711万人で、5年前の調査から約95万人減少しました。人口が減ったのは1920年の調査開始以来、初めてです。
 都道府県別に見ると、人口が最も多いのは東京都の1351万人で、次いで神奈川県、大阪府となっています。東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県の人口は3600万人余りで、全国の4分の1以上を占め、5年間で約51万人増えました。一方、人口が減ったのは秋田や福島、大阪など39の道府県で、東京圏の一極集中がますます強まった形です。これにより、衆議院小選挙区の一票の格差は最大で2.334倍となり、前回調査の1.998倍と比べて再び2倍を超えました。

引用元:テレ朝news(2016/02/26 10:33) http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000069136.html

皆さんはどう思われただろうか。私はなるほどふうんと他人事のように思うと同時に、漠然とした危うさのようなものを感じた。と言ってもそれは、老人が浮ついた若者に抱くような根拠のない反感や忌避感に近いものであった。つまり、なんとなく一極集中よくない! よくわからんけどなんか変! 病的! おかしい! というような、およそまともに取り合う必要などない恣意的かつ感覚的なものであった。

しかし、モヤついた気持ちが生じていることだけは確かだった。それでこの記事に対するコメントを見て回った。すると、以下のようなコメントを見つけて、どうして腑に落ちたように思われたのである。

“優秀な人は都会に持っていかれる。結果地方はバカばかり”

その訳は、なにも地方は確かにバカばかりだよなと納得したわけではなく――ほんとはかなり納得したけど――先の一極集中にともなう具体的な弊害をそこに読み取ったからである。

たぶん、私が感じた危うさの本質は、人が集まり過ぎると災害に弱くなるだとか、地方との経済に開きが出るだとか、そういうことではないのだと思う。もっと普遍的な、人間は基本的にできる限り平等な方がいいよね、少なくとも”平等を目指すこと”が大切だよねという、一種の正義論なのである。

ぽかんとして理解に苦しまれる向きもあるかもしれないが、国や首都というスケールで考えるからわかりにくいのであろう。そこで、これを家族レベルに置き換えて考えてみたいと思う。以下、昔話風に展開してみよう。

あるところに、賃貸マンションに住んでいるAさん一家と、その近くに一軒家を構えているBさん一家、そしてこれまた至近に社宅に住んでいるCさん一家がおりました。いずれのお宅も、家族構成は父母と子二人(男女)の四人家族で、ごく平均的なご家庭でありました。

各家庭の子供たち計6人はすくすくと育ち、みんな同じ小学校に通うようになりました。それで自然と友達になり、それぞれの家に遊びに行ったり、遊びに来られたりするようになりました。

始めの頃は、それぞれの家に万遍なく子供たちの出入りがあり、持ちつ持たれつ、いつも楽しく遊んでおりました。(いいですね、誰しも子供の頃が一番すばらしいですね。)

しかし、次第に一軒家のBさんの家にばかり、子供たちが集まるようになりました。なぜって、一軒家だけあってお部屋は広いし、お庭で泥遊びもできるし、そのうえお母さんはお料理の先生で、いつも味見と称してとってもおいしいお菓子をご馳走してくれるからなのでした。

そうしていつしか子供たちは、「今日は誰のうちに行く?」なんて相談をせずとも、暗黙の了解で当然のようにBさん家に入り浸るようになりました。それでもBさん家のお母さんは嫌な顔ひとつせず、むしろますます張り切ってお菓子を作りました。さらには夜ご飯も食べていってちょうだいと、それはもう下手なお店よりよっぽど美味しいごはんを出してくれるのでした。

もちろん、Aさん家やCさん家のご両親は、あまり頻繁にお邪魔してはご迷惑でしょうとたしなめる程度には常識人で、普通の人でありました。しかし、たった一度、Bさん家のお母さんに「それではご家族の皆さんでいらっしゃってください」と招かれたが最後、すっかり虜になってしまったのであります。

それからというもの、Aさん家のお父さんはこんな愚痴をこぼすようになりました。「Bさん家の奥さんのメシはもっとうまかったのになあ」。もっと、Cさん家のお父さんに至っては、「Bさん家の奥さんと結婚したかった」などと言い出す始末です。

そんなことを言われた時の女性の発言は、たいていヒステリックなものと相場は決まっています。「だったらBさん家に言ってなんでもかんでも食べてくればいいじゃない!」

ここで男性諸氏が平謝りしていれば、ことは穏便に済んだのでしょう。しかし、それじゃあと言って男どもは本当にBさん家に出かけて行ってしまったのでした。

Aさん家もCさん家も、日毎に子供たちや旦那が帰ってこなくなる日が増えていきました。しまいには、まったく音沙汰すらなくなってしまいました。どちらの奥さんも、さすがにヒステリックに怒っている場合ではなくなり、心を痛めて泣き濡れて、毎晩のように旦那さんに電話をかけました。しかし返ってくるのは「楽しくやってるから大丈夫」というばかり。実際、電話の向こうからは、いつでもそれはそれは楽しそうな笑い声が漏れ聞こえてくるのでありました。

Aさん家とCさん家は、次第に苔むすように傾いていきました。無理もありません。奥さん連中の時給700〜800円のパートタイマーで生活を維持するのは並大抵のことではありません。いえ不可能です。一方、Bさんの家では「いつもお世話になってるから」とかなんとか言って(秘密の情事があったのかもしれませんが)、AとCのお父さん両方がお金を入れてくれるようになりました。

そうしてある日、とうとうAさん家とCさん家から灯りが消えました。部屋に入っても真っ暗で、水道の蛇口からポタリポタリと水が垂れる音がしています。ガスコンロはいつかの油汚れを抱えたたまま、死んだように佇んでいます。とうの昔に、電気も水道もガスも止められているのです。台所では、奥さんは毎日なけなしのお金を絞り出して買った料理酒を、パックに直接口をつけて呑んでいます。激しくドアを叩く音が日に何度もします。借金取り、電気屋、水道局、ガス屋、あるいはNHKだったり某宗教団体だったりします。とにかくは、金を払いやがれこん畜生、あるいは、神のおぼしめしを買い取りやがれクソババア、というわけです。

一方のBさん家は、今では都心の一等地を買い上げて、大きな新しい家が目下建設中です。間取りとしては、300LDKくらいになる予定です。とにかくは旦那衆三人の労働力があるのですから資金は潤沢、奥さんのお店出せるレベルの料理で栄養満点、そして毎日元気な子供たちのあふれる笑い声を聞きながらで、精神衛生もまったく申し分ないのでありました。

アハハハハ、ゲラゲラゲラ、ウフフフフ、キャッキャッキャッ……。今日もBさん家からはたくさんの人の楽しげな笑い声が聞こえてきます。そして忘れ去られたようなAさん家とCさん家からは、人とも獣ともつかないようなうめき声が、昼と言わず夜と言わず、それは低く地を這うようにどこまでも遠く響き渡るのでありました。

これにて長ったらしい茶番はおしマイケルである。さすがにお分かりいただけただろう。説明するまでもなく、このお話に出てきたBさん家こそがTokyoであり、Aさん家Cさん家は地方都市の暗喩なのである。

このお話を喜劇だとするか、悲劇でしかなくなんらかの介入が必要だと思うか、あるいは自由意志に任せて放っておけばそれでいいのかどうか、それは私たちひとりひとりの行動、というかお上の方針如何にかかっているのである。何はともあれ、待ったなしの喫緊の課題である。熟慮するよりもなお、小さくとも現実的な即時行動を待ちたい。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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