日本人、ではない。

最終更新: 2017/08/22

日本人ではない。ほんとうによく似ているが、日本人ではない。

何がどう違うのか。白人や黒人には死ぬまでわからないだろう、微妙な違いがある。

それはあまりにも微妙な違いで、漫画なんかで双子を表現するとき――わずかに髪のハネ方が違っていたり、ホクロがあったりなかったりする――よりも、もっと微妙な違いである。

日本人はアジア系民族であり、黄色人種というカテゴリーでくくられる。言うまでもなく、韓国人や中国人も同様である。つまり、生物学的にはんなんら違いはない。実際、われわれ自身、観念の上ではまったく違わない生物だと認識しているはずである。

にも関わらず、気がついてしまう。雑踏で、あるいは電車の中で、どこで遭遇しようと、ものの一秒とかからずに見分けてしまう。これはもう、観察して違いを発見するというよりも、ほとんど暑い寒いというような皮膚感覚に近いのではないだろうか。

そういえば、人間は色彩を肌で感じることができるという。青なら冷たく、赤なら暖かいというあれである。母校の大学のある教授は、それを利用して盲人でも”見える”絵画を構想していると言っていた。

しかしまあ、いまだそれは構想の域さえ出ていないだろう。なぜなら皮膚感覚ほど微妙なものはない。その日の体調にもよるし、下世話な話で恐縮だが、いわゆる性感帯というものを考えればおわかりいただけるのではないだろうか。たぶん、個々人でかなり違う、と思う。

それはともかく、なぜに日本人ではないということがわかるのか。それはおそらく、容姿や挙動におけるごく微小な違和感のような気がする。トンカツを食べ始めて、半分くらい食べたところで辛子の存在を思い出して慌ててかけるような、あるいは、居酒屋のカウンターに並んで腰かけて、手がやけにぶつかるのでようやく相手が左利きであることに気がつくような、そういう、たとえ看過してもなんら問題ない違和感。

とはいえ違和は違和であり、普通ではない状態、つまり異常である。人間は本能的に常ならぬことには敏感に反応するようにできている。島国根性旺盛な日本人は特に鋭敏なのかもしれない。しかし、白人においてはドイツだ人だろうがアメリカ人だろうが全員白人というあまりにもザルな認識しか持っていない。それを考えれば、韓国人や中国人はあまりにもわれわれに似ているため、潜在的な近親憎悪が大きいのかもしれない。

憎悪は、その対象における特徴を過大に評価する。同じ大きさのホクロでも、嫌な奴のホクロは大きく、好きな人のホクロは小さい。あるいは、Aカップの胸に悩む女性には、Cカップの女性の胸がDにもEにも感じられてしまう。憎悪はひとりでに膨張する。人は世界をありのままに見るのではなく、見たいようにしか見ないのだ。

胸に手を当てて考えてみるべきなのかもしれない。瞬間的にコリアンやチャイニーズだと気がついてしまうわれわれは、決して小さくない憎悪を隠し持っているのではないか。そうでなければ、あんなにもそっくりな黄色人種の差異を見分けられるはずがないのではないだろうか。

どんなことにしろ、無自覚なことほど恐ろしいことはない。たとえば、自分の口臭に気づかずに、やたらめったら大口をあけてしゃべりまくりガハガハ笑いまくっている人は悲劇であると同時に惨事である。

無自覚であることは罪だと言っても過言ではない。とにもかくにも、まずは歯を磨くべきであろう。特にキムチを食べたあとは、いくら歯を磨いてもやはりキムチ臭いのだということを知らなければならない。間違っても、キムチを食べたことを忘れてはならないのだ。

いや、それではまだ不十分だ。あなたの口は臭い。だいたい臭い。そう考えていたほうが安全だ。少なくとも、ぼくはいつもそう考えている。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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