心は自己の外

  2017/08/22

起きてみると天気がよくて、布団を干そうと敷き布団を抱えあげる。
するとその布団の裏が有り得ない感じで湿っていて、昨夜のことを思いだす。
なんかうなされてて、汗をびっしょりかいていた瞬間があったなと。
しかし敷き布団の裏にまで染みこむ汗なんて。そんなに汗をかけるものなのか。なんかこぼしたんじゃないかと周りを見回してみたけれど、やはりそれは汗としか思えなかった。で、結局はそれは汗だと結論づける。

新宿にダブルトレースって紙を買いに行きたいんだけど、外に出るのいやだなあ、と悩んでいる。いろんな人を見てると、なんだか寂しい気持ちになる。他人に感情を左右されるのは、あんまり好きじゃない。いつも自分で気持ちをコントロールしたい、と思うけれど、実際できた試しはない。

絵描く人って、いわゆる芸術家って、とてもアクティブで、いろんな所に行きたいもんなんじゃないの、ってよく言われる。しかし僕は本当に、人に誘われでもしない限り、どこかに行きたいとは思わない。
それはただ自分の性格ではあると思うんだけれど、昔、ある一文を読んでまさにその通りだと思った。

それは中国の故事みたいな話で、ある力自慢の武将が敵につかまり捕虜になる。その武将は力はあるけれど、頭はそんなにない(と思われる)。それでまあ、捕虜だから牢屋に入れられる。
敵の中に僧侶みたいな、いわゆる指南役みたいな奴がいて、その力自慢の武将をそのまま殺してしまうのはもったいないと、毎日その牢屋に本を投げ込むことにした。おそらく、偉人の話や、世界史的な、故事のような書物だろうと思う。
それは毎日毎日投げ込まれ、そして数年が経つ。
ある日僧侶は武将に牢屋の外から語りかける。

「ここで数年過ごしたわけだが、何かわかったかね?」

武将は答える。

「はい、世界は広いということがわかりました」

いつかの僕はその言葉にガァンときてしまったのだった。
だって武将はずっと暗がりの牢屋の中に居て本を読んだだけなのだ。いわば引きこもりもいいとこ。しかしその言葉は、世界中を旅した者の帰国後の言葉よりもよほどリアルで、深くて、そして何より世界中を旅した者よりよほど正確に世界を捉えられているのではないか。

つまり世界の広さを知るということは、世界に直接出ていくことではなく、ひとところに収まって、まだ見ぬ世界に思いを馳せる、熟考。何も考えないならば、新宿の街角に佇むも、パリの街角に佇むも変わらないし、変われない。どこに居たって、重要なのはそこで繰り広げる思考だ。

で、これはまあ僕の偏見なんだけれど、今度の休みにはどこへ行こうとか、どこどこへ行ってなになにの人を見たとか、あの映画がどうこうで、やっぱり映画館のスクリーンで見ると違うねとか、そういうことをぺらぺらぺらぺら喋り、またそれに何の疑問も感じず、たらりたらりと生活してるような人間が、僕は嫌いだ。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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