年末の風

  2017/08/22

十月が終わる。

十月の次は十一月である。当前、十一月の次は十二月である。つまり年末である。

年末になると、多くの人は一年を振り返りつつ、来年を見据え始める。毎年毎年、飽きもせずそういう気持ちになる。

今年はこうだった、ああだった。来年はこうしたい、ああしたい。とはいうものの、だいたいは似たりよったりのゆく年くる年である。

めくるめく劇的な変化のある人生を送っている人などそうはいない。そもそも人生における最大のイベントは生死、”生まれること”と”死ぬこと”であり、それ以上に重大な出来事はあり得ない。まあ、これを読んでいる人はすでに生まれてしまっている人しかいないだろうから、あとは死ぬことだけである。

人生における種々のイベントをピラミッド型で表すと、死を頂点として、入学や卒業、恋愛、就職、結婚、出産などが続く。最下層には日々の食事や睡眠、性行為などが分厚く横たわっている。

そのような図を漠然と想像してみると、人生なんてものはまったくしょうもないものだなと思う。だって、死んだら終わりじゃんと、女子高生口調で言いたくもなってくる。

今年もまあいろいろあったし、来年もいろいろあるとは思う。けれども、死ぬこと以上に重大なことは起こりようがないのだと考えると、肩の力が抜けてくる。夢も希望も無くたって、全然いいんじゃん。これまた女子高生口調で。

もちろん、来年と言わず次の瞬間にも人生最大のイベントの死が発生してしまうかもしれないが、少なくともそれ以上のことはあり得ないのだと考えると、その他はどこまでもそれ以下でしかなく、取るに足らないことでしかないのではないだろうか。

あらかじめ限界がわかっていることは、どんなことにしろ救いである。たとえば仕事だって、8時間労働と決められているからこそ耐えられるのである。あるいは子育ても、いちおう20年育てれば解放されるからこそがんばれるのである。仏教における地獄の世界観に、無間地獄が最深部に設定されているのも、決して故のないことではないだろうと思う。

そう、我々は幸か不幸か限界を知っている。いくら辛くても苦しくても、あるいは嬉しくても楽しくても、何が起こったって、全部たいしたことじゃない。

だってどうせ死ぬんじゃん。やっぱりこれまた女子高生口調で、そう思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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