夢と石鹸は酷似している
2017/08/22
喉が乾いた、といえばビールを、となりそうなものだけど、今日はどうもそんな気分でもない。麦茶でいいし水でもいいような感じだ。
ところで今日は父が東京に来ている。中国からの出張帰りらしい。
「親孝行、したい時分に親はなし」とはよく言うけれど、少なくとも今はそんな気分じゃない。真っ直ぐ帰って絵を描きたい。が、今からその父と会って酒を飲まねばならないので、明日早起きして描くことにする。
思うに、ここには温度差がある。父にとってはかけがえのないひとときだろうけれど、僕にとってはどこか義務にも似た面倒さをともなう時間。もちろん、こんな自分の境遇をありがたがらねばならないことは知っている。解っている。しかし心の底はいっそ不動で、遠く表面に立つさざ波を、波紋を、僕は優しさとして父に見せる。すなわち僕は笑い、父は微笑む。二人はグラスを傾け続ける。いかにも幸福らしき時間が茫々と広がってゆく。
まあ、父はタバコを吸わないから、父の前ではタバコを吸えない、いや吸うのがひどくはばかられるのも、僕に父との食事をためらわせる原因のひとつではある。
副流煙とかで体を壊して欲しくないとかいうまっとうな感覚もあるにはあるが、それよりなにより、僕がタバコを吸いそれを目の当たりにする父という図は、僕に痛いほどに自分は大人になってしまったんだということを自覚させる。僕と父との間にいつの間にか生じてしまった、愕然とするほどの距離が、ほとんど具現化せんばかりに感じられる。
あの、二人三脚のように一体感のあった幼い日の思い出は、いったいなんだったのだろうと、胸が苦しくなる。現に今、僕はこの文章を書くことによって自分の中の恐ろしくセンチメンタルな部分が刺激されて、もう、泣きそうだ。まったく、いつまで子供のフリを続けるつもりなのか。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
ご支援のお願い
もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。
Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com
ブログ一覧
-
ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」
2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。
-
英語日記ブログ「Really Diary」
2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。
-
音声ブログ「まだ、死んでない。」
2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。
- 前の記事
- しびれた精神
- 次の記事
- 切り取って飾れる空気