休日の日曜日と呼ぶべき日曜日があったことを話したい(前編)

  2017/08/22

2015年7月26日(日)のお昼12時半ごろ。特に腹は減っていなかったが、昼ごはんを食べに家を出た。

行きつけというほどではないが、近所の中華料理屋に足を向けた。が、やっぱりやめたと思い、国立駅前の回転寿司屋へと足を向けた。

暑い。もうお手上げだと笑えるくらい暑い。そうして実際半笑いになりながら歩いていると、不意に子供の頃が思い出される。田舎の闇のように深い緑の山々と、耳が痛くなるほどに澄んだ清涼な川の光景が浮かんでくる。

夏休みが好きだった。田舎に帰って、いとこにも会えるし、川で泳いだりもできる。その頃は、死ぬほど夏が好きだった。今は死ぬほど嫌いだが。いろいろと変わるものだと思う。それはもう、恐ろしいほどに。

10分ばかり歩いたところで、そもそも腹が減っていないので、回転寿司屋もやめることにした。と、そうだ、「味の民芸」に行ってみようと思い立つ。それは、一年前くらいまで友人が住んでいた家の近くにある、郊外型の和食レストランである。友人の家に行くときには、いつもその店を目印にして右折するのであった。

歩く。もちろん汗ばんでくる。しかし不思議な高揚感も伴ってくる。途中、これも郊外型レストランのステーキ屋があって、むちゃくちゃ肉を食ってやろうかと迷ったが(腹は減っていないが)、これもやっぱりやめて歩き続けた。

道路沿いに公園兼野球場があり、それぞれが誰かの父親だろう年齢の人々が集まって草野球に興じていた。子供たちは周囲の遊具で遊んだり、無意味に駆けたりしていた。

10~20mほどの2点間に張ったワイヤーに滑車のついたロープがぶら下がっていてターザンのようにして遊ぶやつ――いま調べたところ正式名称はずばり「ターザンロープ」というらしい――で、子供があーああー(昨今の子供がそう言うわけはないので擬音としてである)と滑っていっては走って開始地点に戻り、またあーああーとやるのを激しく繰り返していた。ぼくは「ああ、人間の本質は繰り返しなんだよなあ」と、ひとりごちた。

それから「味の民芸」に辿り着いたが、何の魅力も感じられず、そのまま通過してしまった。やはり回転寿司に行こうと思う。この方向にあるかどうかは知らないが――携帯は持ってきていない。持ち物は3千円ばかり入った小銭入れと、柳田国男の「木綿以前の話」という本だけである――たぶんあるんじゃないだろうかという勘だけで歩いていった。

しかし、どこまで歩いても回転寿司屋はなかった。ラーメン屋やパスタ屋はあったが、回転寿司屋は無いのだった。いつしか、最寄りの南武線谷保駅の隣駅である矢川駅にまで来てしまっていた。ランナーズハイではないが、妙に気分がよかった。サイゼリアがあったのでビールでも飲むかと思ったが、今ひとつ食指が動かなかった。

駅の周りをぐるりと巡ったが、しかし、回転寿司屋だけはなかった。いっそ、もう二駅ほど歩いて立川まで行って寿司にしようかと思ったが、さすがにそこまでの元気はないなと思いスーパーに入った。ビールを飲もうかと思ったが、やっぱりやめて特ホの黒ウーロン茶を買って、スーパーの真ん前で飲んだ。暑さと疲労のおかげだろう、すばらしい味がした。旨あっと、パッケージをしげしげと眺めた。当たり前だが、成分は何の変哲もないウーロン茶であった。

さて、やっぱりやっぱり、出発点の谷保駅近くのカレー屋にしようと思い、また歩き始めた。線路沿いを進んでいたが、ふと脇道を見やると緑と日陰の多い公園が目に入りそちらへと歩を転じた。ちょっとした高台になっている園内へ登ってゆくと、やぐらが組んであり、人が集まっておつかれさんおつかれさんとおにぎりを食べていた。近々夏祭りがあり、その準備であろうと思われた。

園内を通りぬけると、いまどき誰も見ないだろうというさびれた掲示板があって、ぼくも例に漏れず素通りしかかったが、なんとなく足が止まった。元宝塚だかの人の演劇のお知らせや、町内の掃除などのことが書いてあった。ふうんと眺めていると、その中のひとつに目が留まった。

「キラキラネームの大研究」という新書の著者による講演会があるらしい。説明を見ると、昨今「沙冬」と書いて「しゅがあ」など、キラキラネームが流行っているが、日本では古来より頼朝(よりとも)など、本来の読み方にはない、語感やイメージによる当て字が多く使われてきた歴史があるという。これは相当にぼく好みであり、非常におもしろそうであった。

日時は7月26日(日)14:00~、場所は国立市公民館とある。まさに今日で、時間もおあつらえ向きである。ぼくは早速行ってみようと、おにぎりを頬ばっているおっさん連中の一人に、公民館への行き方を尋ねた。

まっすぐ行って、左折。そしてまたまっすぐ。けっこう遠いよとのことだった。ぼくは礼を行って歩き始めた。しかし地図が読めないうえに方向音痴のぼくなので、GoogleMapなしにはどこにもたどり着ける気がしなかった。

後半へつづく。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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