人様を殺するべからず

最終更新: 2017/08/22

つまり、どこにも行きたくない-DVC00117.jpg

同級生の、キンジが殺された。
薄暗いバーのような地下で、樋口と田川がキンジに近づいていった。ぼくは田川がキンジを殺そうとしているのを知っていた。
田川は胸元に手をつっこみ、拳銃を取り出そうとして、そこでぼくは目を逸らした。
一瞬のあとにはキンジが倒れこんでいた。
なんで殺すことになったのかはよくわからなかった。とにかくは、ぼくと樋口とは田川の共犯だということだけは感じていた。
その後、三人はスーパーにいた。飲み会か何かをするらしく買い出しに来ているらしかった。
三人はなにか晴れ晴れとしたような、浮かれた調子だった。しかし表面上は笑っているぼくの胸中は、捕まるかもしれない、いや捕まるわけないさという二つの道が、開かれたり閉じられたりしていた。
それは今までに味わったことのない恐怖だった。足元が今にも抜け落ちてしまいそうだった。捕まったら、きっと十年くらいは刑務所だろう。十年も刑務所に入っていたら、きっと世間は大きく変わっていて、ぼくは取り残されてしまう。親とか知り合いらとは断絶されて、だいぶいい歳になりしかも前科持ちのぼくは、一人ぼっちで、夢も希望もくそもなく、パチンコ屋か新聞配達の住み込みでもやるしかないんんだろう、とか。
それは考えても考えても恐怖でしかなかった。
なんで殺してしまったのか、後悔ばかりをしていた。でも、捕まらないかもしれない……大丈夫、自信をもて。少なくとも一週間くらいは平気さ、今は、楽しもう。
とそこへ警察がどやどやと流れ込んできた。スーパーの棚越しに樋口が拘束されるのが垣間見えた。あまりにも早いと思った早過ぎると思った。警察はすげえとも思った。もう世間には帰れないんだとあきらめた。
がくがくぶるぶる、目が覚めた。

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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