なにもかも、消え、去る。

  2016/04/08

昨日、ある知人と連絡を取った。ひさしぶりに飲もうかという話だったのだが、しかし、地元に帰ってしまったのだという。

いつの間にか引っ越してしまっていたわけである。うまがあって、けっこう仲がよかった気がしていたので、送別会も何もなく、水くさいなあと思わないでもなかったが、逆の立場だったら、果たしてそのような”マメな”会を開いたかというと実にあやしいので、まあ、そんなもんかと思う。

また貴重な飲み友達(飲酒量の意味で)が一人減ってしまった。とはいえ、そもそも私は薄情な利己的人間なので、友達の一人や二人、いなくなろうが嫌われようがどうでもいいのだが、それでも、すこしは思うところはある。

話は変わるが、2、3年前に地元の広島で働いていた会社を検索してみた。見事に消滅していた。

まあ、私が東京に戻ろうと決めた時分には傾きはじめていて、最後の一月分の給料など結局未払いになってしまったくらいなので、さもありなんではある。会社のホームページは消え去り、SNSだけがかろうじて残っているが、それとて一昨年のある日で止まっている。

沈みかけた船からぎりぎりで脱出できた私は、ほんとうにラッキーだったと思う。もしもあのまま広島にとどまっていたら、する価値も必要もないくだらない苦労をするはめになっただろう。

そんなことを思いながら、さまざま検索をかける。数ヶ月とはいえ、毎日通っていた事務所にまったく別のテナントが入っているのを見ると、なんだか切なくなる。

私は確かにそこでけっこうな時間を、人生の一部を過ごしたのだけれども。

それは、あるいは自分の生まれ育った家が人手に渡ってしまう切なさに似ているのかもしれない。自分の経験ではないが、ある知人にそういう話を聞いた。曰く、幼少の時分、親と一緒に家の設計図を見たりしながら夢と希望でもって建てられた家に、今は他人が住んでいる。しかも経済的な理由でそうならざるを得なかったという。

人の気持ちを解す気のない私でも、しみじみと伝わってくる悲哀がある。

長く生きれば生きるほど、この種の悲しみは増えていくに違いない。在ったものが、無くなる悲しみ。手に入れたものを、失う悲しみ。

当たり前すぎるこのこの悲しみと付き合っていくには、もっと、適当になるべきなのではないだろうか。ただし、釈迦のいう執着を捨てることとはちょっと違う。というか、執着を捨てることは、ほとんどの人間には不可能だと思う。

そうではなく、字義通りもっと”適当”にする。親も兄弟も配偶者も恋人も友達も、もっと適当に考える。適当に大事にして、適当にぞんざいに扱う。大事! ぜったい大事! 何があっても死んでも大事! ではなくて、大事なときもあるし大事じゃないときもあるくらいの、適当さ。

この世は諸行無常なのだから、絶対普遍的なものを志向すること自体が、天に唾するような愚かしい行為なのではないだろうか。

ずっと大好き。ずっと愛してる。あるいは、ずっと友達。ずっと恋人。ずっと家族。ずっとずっとずっとって、ずっとなんて無えよ。なにもかも今だけに決まってんだろ、と思う。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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