人間の検査

  2017/08/22

全員が同じ服を着ている。

安っぽい薄紫色のジャージ。若いのも老いたのも、女も男もいる。あるいは韓国人や中国人とおぼしき人もいる。しかしとにかくは同じ服を着た50人ほどが、明るく清潔な病院のような待合室にたむろしている。

それはあまりにも非日常的で、圧巻でさえあった。思わずやなぎみわの写真作品を連想してしまう。実際、違和感という点では相当に通じるものがある。

上着の襟首から出ている頭部の禿げ上がったのや髪の長さ、肌のつやなどだけがその属性を主張している。身なりによる年代や身分、ジェンダーはほぼ完全に消失している。あるいは学校の制服を想像するかもしれないが、しかし男女の区別さえないので、それよりももっと異常な感じである。

私は空いている座席に腰かけて、辺りを見回した。女性はノーブラなのだろうかと余計なことを考えた。というのも、よくよく見るとそれはジャージとは似て非なるもので、上着には右胸から大きくスリットのような切れ込みが入っているのである。それで、ちょっとめくれば容易に乳房が露出するだろう作りになっているのだ。まあ、私もまたそれと同じジャージを着ているのではあるが。

各々の名前が随時フルネームで呼ばれる。呼ばれた者は席を立ち、係の者に誘導されて各部屋へと消えてゆく。15分ほど経ったころ、私の名が呼ばれた。シンタクトモニさん。そういえば、私はいったい何人だと思われたろうか。よその国の人だと思われるむきは少なくないかもしれない。

スタッフはほぼ全員がマスクをつけていた。しかし私を含めてジャージもどきの人たちはつけていない。その違いは、支配するものとされる側のような、あるいはアウシュビッツ的な断絶感を演出していた。実際、全員が同じ服を着せられていることで、妙な無力感というか単なるモノになったような心持ちがするのである。

サラリーマンだとか美術家だとかの個が消滅し、その他大勢の内の一人に過ぎない単なる人間アジア系男性33歳となった私は、言われるがままに引き連れられていった。着席させられ、腕をまくられ、二の腕をきつく縛られた。「ちょっとチクッとしますよ」と告げられた。私は恐ろしくてそちらを見ることができなかった。鋭い痛みが二度走った。「しばらく押さえていてください」見ると、ガーゼの奥で血が滲んでいた。

それを皮切りに、ありとあらゆる身体的特徴を調べられた。身長と体重はもちろん、血圧、聴力、視力、眼圧なんてものまで計測された。まるで徴兵検査である。極めつけは超音波での内臓検査であった。胸部から下腹部にかけて、異様に湿潤なゼリーを塗りつけられるのである。そして、バイブレーターにも似た円筒形の器具で、胃部から脇腹から下腹部からをぐりぐりと押すというか撫で回していく。初めは違和感しかなかった。しかしそれが1分2分と続くうち、なんだかおかしな気持ちになっていった。

ようやくで終わり、タオルでゼリーを拭くように言われた。ぬるぬるとする腹部を拭いていると、これがまたなんとも言えない気分にさせられた。とても堅気の検査とは思えず、特殊なサービスを受けた後のそれとほとんど違わなかった。ここだけの話、若干勃起していた。

やや前かがみで待合室に戻り、一番近い場所に腰かけた。私はその検査室から出てくる男性陣を待った。同年代くらいの人が出てきて、下腹部に注目した。ズボンは柔らかなジャージ素材である。わずかな起伏も正確に反映する。しかし、それらしき凹凸は認められない。続いて出てきた人も、次の人にも認められなかった。そうこうしている内に次の検査に呼ばれた。尿検査だった。

紙コップを渡され、トイレに入った。いまだ平常ではない性器をぼてっと紙コップに垂らしながら、これはいったいなんの病気だろうかと考えた。あるいは徴兵検査ならば、いの一番に最前線に飛ばされ砲兵にでもなっていたのかもしれない。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家/WEBデザイナー/合同会社シンタク代表。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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