エロ本は、茂みにありて拾うもの、そして悲しく濡れるもの 【中編】

最終更新: 2020/08/19

昨日も今日も精神状態および多忙のため執筆がはかどらず、中編を設けてしまいました。こちらから読み始めてしまった方は前回の記事「エロ本は、茂みにありて拾うもの、そして悲しく濡れるもの 【前編】」からお読みください。

一匹のバカよろしくわたくしは、山道でエロ本を探します。よさそうなエロ本を見つけると、しゃがみこみ、そっと、めくります。捨てられているエロ本はほぼ例外なく、いつぞやの雨、もしくは夜露で濡れそぼっているのです。または逆に、がっさがさにひからびているのです。

濡れたエロ本というのはなんとも言えないにおいがしております。独特の、くさいなどの一言では切り捨てることのできない、エロ本のにおいとしか表現しえないようなにおいです。これは健全な男性諸氏ならばきっとおわかりいただけるのではないかと思います。

わたくしはエロ本を探して山中を巡ります。エロ本を見つけては、しゃがみこみます。そしてめくると、ぐしょぐしょの場合は2、30ページがひっついて1ページとなってめくれます。2、3ページ分は透けて重なり、複数の被写体が自然と合成されているような格好です。無理に1ページだけをめくろうとすればしばしば破れてしまいます。一方、ひからびている場合はボサボサの髪の毛のようにエロ本全体が波打ちだらしなく開きっ放しになっており、ページをめくれば、がさりがさりと枯葉がすれ合うような物悲しい音を立てるのでございます。

その一連の行動は、あるいは傍から見ればミレーの名画である落ち穂ひろいにも似ておりました。しかしそこには農民の労働の輝きなどはなく、堕落した人間の欲望があるばかりでございます。

しかし、聖書にはこうあります。心の貧しい人々は幸いである。

イエス。それは奇跡でした。さまよい歩くわたくしの眼前に、濡れても、干からびてもいない完全なエロ本が出現したのであります。

わたくしはわななく手でエロ本を拾い上げました。切れそうなほど角の立った表紙を、ゆっくりと開きました。わっと色彩が飛び込んで参りました。鮮やかでございます。まったく色あせておりませんです。総天然色でございます。フルカラーでございます。まるでコンビニの成人コーナーで立ち読みをしているのではないかと錯覚するほどでございます。

その時、ふっと視線を感じて、辺りを見回しました。しかし木々の揺れるざわめき、遠く車の流れる音以外には何もありません。安堵してわたくしは、おもむろに上着をめくりあげてエロ本をお腹に、正確にはズボンの腹部のベルト部分にぐいっと挟み入れて——これも男性諸氏ならばよくおわかりの感覚かと思いますが——小走りかつ若干内股でリトルカブに戻りました。わずかに日が、傾きはじめておりました。わたくしはぶるっと頭を震わせ、高鳴る胸とエンジン音を弾ませながら自宅へと向かったのでありました。

自宅に戻るやいなや、わたくしはただいまも言い終わらないうちに玄関をすり抜け自室へと駆け上がりました。

わたくしの部屋は一戸建ての三階にありました。ログハウスか屋根裏部屋のような感じの三角形の形をした特殊な部屋でした。そのため、三角の底辺の角部分は、ふつう四角形で構成される家具を置けば必ずデッドスペースとなり、家具の収まりが悪いことこの上ない部屋でした。対応策は家具を最小限にすること以外には考えられなかったので、学習机、タンス代わりのローボード、パイプベッドの他は何もありませんでした。そしてなにより使えないことには、押入れやクローゼット的なスペースがなかったのです。

これは大問題です。考えてもみてください。本来的に、親兄弟と暮らせる若者にとってのエロ本とは、暗く湿ったところに隠されるべきものなのです。そのスペースが無いのです。

わたくしは学習机の引き出しの教科書の並びに紛れ込ませてみたり、ローボードの中の衣類の下に隠してみたりして、見つかるか見つからないか、隠ぺい度合の検証を重ねました。その結果、灯台下暗し的な場所を見つけました。

春から夏に移ろう頃でしたので、パイプベッドのわきに、冬用の布団や毛布が畳んで積み重ねられていたのです。その一番下に、エロ本を隠しました。

これからどんどん暑くなる。そう、夏がやってくる。エロ本は、冬用の布団の下で眠りにつき、わたくしの部屋から消え去ったも同然でした。

きょうのしごと:6時45分起床、絵の制作0ゲーム(いまさら無気力に苛まれています……)

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新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

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