マホメットと大天使ガブリエル

  2020/06/26

マホメットとか天使ガブリエルについて、書く。まず、マホメット(発音の問題なので、いろいろ言い方はある。モハメッド(ムハンマド)とも)というか、いまウィキペディアで調べたら、どうやら近年はムハンマドと呼ばれることが多いようである。ぼくもそれにならってムハンマドと呼ぶことにします。

さて、ムハンマドはイスラム教の創始者である。6世紀末にアラビアのメッカに生まれる。ムハンマドはアラビアで大きな隊商を率いる裕福な商人であった。しかし、そういう人によくありがちな「わたしの人生はこれでいいのだろうか」というような煩悶から、しばしば山とかに行って瞑想をしていたそうである。瞑想っていっても、まあ、ちょっと薄暗いとこでぼけーっとしていたりという、現代で言えば中年男性サラリーマンが深夜にマックでたそがれているところを考えればよいのではなかろうか。

まあとにかくはそういう日々を送っていまして、40歳になったときのある日、またいつものように山に瞑想に行っていた。ヒラーとかいう山の洞窟で、である。
すると、ムハンマドの前に大天使ガブリエルが現れ、こう言った。読め、「創造なされる御方、あなたの主アラーの御名において。一凝結から、人間を創られた。」読め、「あなたの主は、最高の尊貴(そんき)であられ、筆によって書くことを教えられた御方。人間に未知なることを教えられた方である」

ふつうに何言ってんだかよくわかんな?いって感じだけど、そこは悩める中年男性でいわゆるこむずかしい新書のたぐいを日々の慰めに愛読していたであろうムハンマドであるからして、胸が締め付けられるほどに、アンサーキタ! という感じで全身全霊で理解した、できた。すなわち、神が一滴の血から人間を創り、人間に書くことを始めとするいっさいの英知を与えたというこの真実を、みんなに伝えなさいと、こういうわけである。もちろん悩める中年男性であるからして、その使命重っ! とはならない。いざ出陣! と、こうなるのである。

このアラーの啓示により、それからのムハンマドは布教にせいを出し、西アジア、北アフリカ、スペインまでをも次々と征服し布教していくのである。ちなみにこの大天使ガブリエルというのは、いわゆる聖母マリアに神の子キリストを受胎したことを伝えた天使でもある。ここで、これらの宗教をまったく勉強したことがない人は素朴な疑問をいだく(って、かつてのぼくもそう思った)。なんでキリスト教とイスラム教が混ざってんだ? と。だってキリストとイスラムは関係ないでしょう。キリストはなんかよくわからんけどアーメンとか結婚式とかで愛を誓いますかぁ? とかやるやつだし、イスラムはほら、断食とかしてテロとかやる過激なやつでしょう? と。

しかしそれは違う。まったくもって違う。そもそもイスラム教とキリスト教は同じ書物というか聖書を土台にして始まっている。きっと誰でも単語だけなら聞いたことがあるだろう旧約聖書である。旧約聖書には、おなじみのアダムとイブの知恵の実の話をはじめ、ノアの箱舟、モーセの十戒などが書かれている。で、キリストとイスラムで何が違うかといえばその内容の扱い方である。キリスト教では、キリストは神の子でありキリスト自体を信仰の対象としているが、イスラム教では、キリストの存在は認めているが、それは信仰対象ではなく、あくまでもサムエルやエレミアといった、旧約聖書の中に出てくるたくさんの預言者のひとりに過ぎないのである。

と、ここで注意してほしいのは〈預言者〉という単語である。これは、あくまでも〈預言者〉であり〈予言者〉ではない。たとえば、ノストラダムスは予言者であっても預言者ではない。これはどういうことかというと、預かるという字の通り、神からの言葉を預かった者を預言者と呼ぶのでありで、自分で何かを感じて予言するわけではない、これも字の通り、予め(あらかじめ)(未来のことを)言うわけではない、ということである。

そんなわけで旧約聖書の中にはたくさんの預言者が出てくる。しかしキリストはあくまでも〈その他大勢の預言者のひとり〉に過ぎないとしているのが、イスラム教なのである。ちなみにキリストは〈神の子〉であるので、親は、旧約聖書の最初のくだりで、光あれ、とかなんとか言って水や大地といった〈この世界〉を6日間で作って、7日目に休まれた(現在の一週間のもとで、だから7日目の日曜日は安息日でお休みになっている)という創世記の、エホバ(ヤハウェ)である。

そして旧約聖書と並んで新訳聖書があるが、これはキリスト生誕以降のことが書かれている。のでアール。って、説明するのが難しい、本当に。本を読み読み噛み砕いて説明を試みている、いま。参照している本は「阿刀田高著:旧約聖書を知っていますか/新潮文庫」「阿刀田高著:新約聖書を知っていますか/新潮文庫」「阿刀田高著:コーランを知っていますか/新潮文庫」「歴史の謎を探る会[編]:常識として知っておきたい世界の三大宗教/河出書房新社」「山井教雄著:まんがパレスチナ問題/講談社現代新書」であるので、もっと詳しく知りたい方はぜひこれらの本を手に取ってみることをおすすめしたい。というか、おわかりいただけたでしょうか。大天使ガブリエルのこと、マホメットのこと。

新宅 睦仁/シンタクトモニの作家画像

広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。

ご支援のお願い

もし当ブログになんらかの価値を感じていただけましたら、以下のいずれかの方法でご支援いただけますと幸いです。

Amazonギフト券で支援する
→送信先 info@tomonishintaku.com

Amazonほしい物リストで支援する

PayPalで支援する(手数料の関係で300円~)

     

ブログ一覧

  • ブログ「むろん、どこにも行きたくない。」

    2007年より開始。実体験に基づいたノンフィクション的なエッセイを執筆。アクセス数も途切れず年々微増。不定期更新。

  • 英語日記ブログ「Really Diary」

    2019年より開始。もともと英語の勉強のために始めたが、今ではすっかり純粋な日記。呆れるほど普通の内容なので、新宅に興味がない人は読んで一切おもしろくない。

  • 音声ブログ「まだ、死んでない。」

    2020年より開始。ロスのホームレスとのアートプロジェクトでYouTubeに動画をアップしたところ、知人にトークが面白いと言われたことをきっかけにスタート。その後、死ぬまで毎日更新することとし、コンテンツ自体を現代アートとして継続中。

  • 読書記録

    2011年より開始。過去十年以上、幅広いジャンルの書籍を年間100冊以上読んでおり、読書家であることをアピールするために記録している。各記事は、自分のための備忘録程度の薄い内容。WEB関連の読書は合同会社シンタクのブログで記録中。

  関連記事

われらが東宝大工センター

2009/02/07   エッセイ

別に東宝大工センターで働いてるわけでもなんでもないんだけどね。でも東急ハンズより ...

フリーター、野宿者、そして衰退する日本(あとがき)

昨日は一時間制作。のち体重計に乗り、許容範囲だと甘えてランニングをさぼる。そして ...

実は大儲けできるのかもしれない

2009/06/03   エッセイ

なんか最近このブログのURLがごく一部で読んでみて読んでみて新宅さんがブログやっ ...

言葉はそのひとである

2012/11/19   エッセイ, 日常

昨日は登戸にあるキリンシティに行った。学校の横の新宿アイランドのキリンシティには ...

なぜか、どこかに行ってしまった。【日光・鬼怒川温泉篇】

2015/11/11   エッセイ, 日常

先週末、日光・鬼怒川温泉に行ってきた。 とにもかくにも、まずは謝罪しなければなる ...

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited. All Rights Reserved.

Copyright © 2012-2024 Shintaku Tomoni. All Rights Reserved.