至らない点
2017/08/22
不意にプールサイドの匂いがしてハッとする。
水がまかれたアスファルト、その脇を通過するわずか一瞬、僕の鼻先がいつかの夏を目ざとく思い出す。
頭に浮かんだのは小学校のプールだった。言ってみればなんの変哲もない、面白くもなんともない25メートルプール。
水色。水面はいつも楽しげに揺らめいていた。しかしある日の水泳の授業の時は大雨で、どうせ濡れるんだからと先生は普通に授業を行った。僕らは晴天の時よりむしろ喜んで、はしゃいでいた。
しかし雷が鳴り始めて、万が一の落雷を心配して授業は打ち切りになった。僕らは皆残念がった。どう考えても無限に続くとしか感じられなかったある夏の日。
幼い日を思い出して今が悲しくなるのは、どうも健全な大人のすることではない気がする。しかし健全な大人とはなんだろうかと考えると、それはそれで答えに詰まる。
変化。小学生から今日までの、わかりやすい変化。
鉛筆はシャーペンになり、シャーペンはボールペンになる。しかし高校のある日に魔が差して、また鉛筆を握る。
そこで気づくべきだったような気もする。明らかな退化だと。だけど僕は退化の道を勇んで進み始める。
気づけば更に退化して、筆なんか握ってる。“健全”な大人はボールペンくらいしか使わない。しかし僕は筆を信じる。今どき筆なんかじゃ、複写もできないからビデオ屋なんかの会員証ひとつ作れない。
ペンは剣より強し。
筆じゃないのかァ。
まあ、ある一つの見方によれば、の話だけど。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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