ひざまづける対象をひとつ
2017/08/22
換気扇の回る音だけが聞こえる、いやたった今、車の音が混じった。できる限り状況を描写しようと試みて、すぐに諦める。つーか変人ぶった書き出しにはもうウンザリだ! と。
来週、またしても父が来るらしい。で、またご飯の誘い。ぼくは制作に忙しいから断ろうと思ったのだけれど、あと何度、父と酒が飲めるか知れたことではないだろうと究極に理性的に考えて、一応オーケーしようかと思っている。
しかしどうして、父とご飯という予定を楽しみに思うことができない。タバコをやめたから喫煙の我慢をする必要はなくなったのに、だ。
ぼくが小学校四年か五年くらいの頃、父が名古屋に単身赴任していた時期がある。その時、2・3ヶ月に一度だけ父が帰ってくるその時は、ぼくは確かに喜んでいて、心から嬉しかったのを覚えている。
今ふっと思う。それが嬉しかったのは確かに覚えているのに、その根拠がどうもはっきり思い出せない。何が嬉しかったんだろう? 多分、ほんとに理由なく嬉しくて、今はその時の「理由なく嬉しい」って感覚が理解できなくなっただけなのかもしれない。
広島→福岡→東京→シンガポール→ロサンゼルス→現在オランダ在住の現代美術家。 美大と調理師専門学校に学んだ経験から食をテーマに作品を制作。無類の居酒屋好き。
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